あいつが電話してくる。
毎日、電話してくる。
必ず最初に、「うちに来ませんか?ドライブでも行きませんか?」
とか言う。
あたしは、連日仕事が入っているから、疲れてて「電話だけね」と言う。
金曜日、会う約束をしたから、それまでは電話だけ。
一人でいる事に慣れなきゃね。
そんな事を言ったら、あいつが。
「提案があるんだけど」
「なに?」
「一緒に、暮らしませんか?実家に帰るんじゃなくて」
「は?」
あたしは、実家に帰るつもりだったけど、実家から職場まで遠い事もあって、職場の近辺にアパートを借りるつもりでいた。
友達が不動産屋で働いているので、そこでいい物件を探してもらった。
そのことを、まだ話していなかった。
実家に帰るとあいつの家からかなり遠くなるから、近くになったんだよって驚かそうかな、と思ってて。
「一緒には暮らさない」
「言うと思ったけど・・・」
「でもね、近くには住むよ。今よりちょっと近いかな、5分くらい短縮」
「そーなんだ・・・」
あんまり嬉しくなさそうだった。
「実家に帰ったら車で1時間弱掛かっちゃうようになるけど、新しいアパートは車で15分弱だよー」
「うん・・・」
一緒に暮らさない?と言ってくれた事は、素直に嬉しい。
でも、まだまだそんないきなり出来ないよ。
あたしには、出来ないよ。
だから。
「いつか、一緒に暮らそう。そう思ってるから。あたしは」
あいつは、あんまり納得してなかったみたいだったけど。
でも、まだあいつのご両親の事とか、いろいろあるわけだし。
そんな簡単に同棲だの、なんだの、出来ません。
ここまで周りを巻き込んで、自分勝手して来て。
これ以上自分勝手は出来ないから。
充分、自己中な事、してきたから。
今更、何言ってんだよ、って思うけど。
苦しい思いとか、辛い思いとか、悲しい思いとか、周りにたくさんさせた。
だから、あたしはこれからは、なるべく、そういう思いを誰かに、あたしたちのせいでさせたくないんだ。
もしかしたら、知らぬ間にさせちゃっているかもしれない。
させちゃうかもしれない。
でも、自分たちが出来る範囲では、させないように、努力したい。
強がって、生きて行きたい。
たとえ、苦しくて辛くても、自分たちの中だけで止めたい。
周りを、巻き込みたくない。
寝る前に妹からメールが来た。
「俺にとっての自信は、俺ならりりかさんを本当の笑顔に出来る。りりかさんにはいつも笑っていて欲しい。りりかさんを他の人が大事にするんじゃなく、俺が大事にして行きたい」
あいつが、妹に送ったメール。
そう言えば、あたし最近、本当の笑顔、出してない。
笑えて、ないな・・・
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