ほほ、と女は笑い、「あら、野郎だなんて。私は女性よ」などと涼しい口調でぬかす。だが顔が見えない。強烈な逆光で首から上は太陽にガッチリと守られているように見えないのだ。少しでもそいつの眼や唇を見抜こうとすれば、強烈な太陽光線に射抜かれてしまう。だが手元の紙は見える。確かにおれの名前だ。この野郎! 「あなたは自分を煩わしがっている」 解っている!そんなことは! 「けれどどうしたらよいか解らないでいる」 それも知っている!そんなこと! 「だからこうしてあげているのよ、あなたの命の願いを聞き入れてね」 だからおまえは誰だ!! その問いには答えはない。だがどうやらおれは深刻な事態に陥っているらしい。もしかしたらオーバードーズの果てで見える不確かな超現実、白昼夢とも何ともつかぬ知覚の世界かもしれない。それともボウガンの流れ弾に当たって今まさに死にかけているのか? 分からない。分からないことを考えても仕方がない。やめろ、その紙を、と言ったら女は数百枚のおれのなまえを書いた紙を取り出した。何枚あるんだ。 「ほほほ、あなたは幾らでもいる。ただしこれはあなたではない。本当にあなたを司るものが自筆で書いた紙をコピーしたもの」てめえ!「今、破いたのも、そう。コピーなのよ」くそったれ!「本物を破けば…あなたは死ぬわ。自我が引き裂かれてね。そして同じ人間のまま、切り裂かれた名に従って、別の人間になる。そう、別の人間たちに」 という人が夜な夜な現れて、己を破き始めるとよろしくありません。軽々しい気持ちで自分の名や生命を粗末に曝さないように。 |
writer*マー | |
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