「ちんえもん、なんじゃ、やられたか」 「キャベツの芯や、あつい湯で、さんざんにやられたけえ」 ちんえもんさんは病室のベッドで、照れくさそうに笑った。看護婦が、体温を計るふりをして、針でちんえもんさんを刺そうとした。友人がそれを止めた。 「お前は、何かと、色んな職種のものに、絡まれるのう」 「わしは、ただの、ちんえもんなのだがなあ」 回診中の医師がヨードチンキの瓶をしゅっと投げてきたり、別の看護婦が青緑色をした点滴を刺そうとするので、ちんえもんさんは車椅子で逃げ惑った。ちんえもんさんは大変。 「ちんえもんさん、あんた、共感してくれる人は、いないのかい」 「別件で、ちんたろうさんという人が、うちの蛇口を直してくれたりしたなあ」 「それは修理代とか、どうなんだい」 「別件だから、ただでしたのう。わしは、ただの、ちんえもんやさかい」 「そういえば、お前の嫁さん、どうした」 「茶そばを食べたいといって、信州で、うどんを食べておる」 「なんじゃそりゃ。ちがうもん食うとるやないか」 「とみ子は、両極端やからなのう」 ちんえもんさんはからからと寂しそうに笑った。ビールを買ってくるよ、と席を外した間に、興奮した医師にメスでざんざんに切られ、大変な姿になってしまっていた。ちんえもんさんの姿はもんごういかに似ていた。人の攻撃的な劣情を掻き立てるのかもしれない、と、友人は葬儀の場で思った。ちんえもん |
writer*マー | |
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