ある日、ター坊は部屋でアロマを誤って飲んで、すっかり酩酊しており、風呂おけに全裸でまたがって「はしれ、おんま、はしれ、うま」等の疾走的酩酊に耽っていた。 それを見た隣人のみよちゃん(18歳)は、年の割りにあれがちいさい等と思ったが、口には出さず、警察を呼びに行き、「おうまごっこを しているのよ」と事の顛末を訴えた。 警官である権蔵(42歳)は、アカエイの毒針をゆわえつけた自作の毒やりを手に「暴れ馬は、殺してしまわんと、病気がみなに、うつってしまうけえ」と神妙な顔で言うた。 権蔵は、ター坊が奇声をあげ、全裸でせっけんのぬるぬるに足をとられて転ぶ等の、極めて危険な遊びに身をやつしている光景を見た。 「あれは 花王の せっけんか」 みよちゃんは首を横に振った。「個装に うしの 絵が りあるに かいてあったわ」 権蔵はうむむと唸った。牛乳石鹸か。それでは逮捕できない。 ター坊はさらに、円形の固形物を袋から取り出し、少し水に付けたりして、緑色の泡がしゅわしゅわするのを喜んで奇声を高らかに上げた。 「あれは 花王の ばぶか」 権蔵にみよちゃんは頷いた。「あいつは きちがいだから ばぶで からだを あらいよるけん 花王でなきゃ いかんと あいつは いうのよ」 権蔵は手につばをかけて気合を入れた。 「これで 逮捕が できるぞう」 「花王は 一兆円企業だからね。その製品を 悪用するものは 犯罪と 見なして よいのだものね」 みよちゃんは、緑色の泡で前や後ろを塗りたくっているター坊を指差した。 「はやく たいほせえ、お巡りさん」 「わあ わあ わあ」 ター坊は非力だった上に、ばぶと石鹸で、ぬるぬるで、しかもアロマを誤飲していたので、ふらふらで、為すすべなく、捕まった。 翌日、ター坊は、手足を切り落とされ、性転換手術を施され、整形手術をされ、不自由な女にされたあげく、村上龍「イビサ」の最後の方のページに、強制転送された。近代国家は、現実に手に負えない人間が現れると、著名な文学や芸術などに、類型を求め、それに、存在転送するという、極めて投げ遣りな制度を培った。ター坊は、手足のない女性主人公の姿かたちと物語に複写されつつも、今も「イビサ」で蠢いている。西暦2122年4月27日(水) |
writer*マー | |
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