皇帝陛下食卓詩  2003年05月08日(木)
03.03.27(thu)
ユウキドラッグ729

皇帝陛下マティウスの朝食に関する記述。


皇帝陛下は黄金色の胸当て・リストガード・首当てを身につけ、毎日午前7時半から朝食を取ることを日課としている。


皇帝陛下は謎につつまれた出生、経歴の持ち主であり、玉座の裏や足元には虚数暗黒空間が広がっているとも言われ、その実年齢は不明であるが、陛下は卵料理がお好みだ。

陛下は愛刀を携え食事室へ向かう。陛下は煌びやかな装飾がぞろぞろ並べ立てられるのを好まぬ、質素な性格で、親衛隊のものを3名だけ連れて、城内を動く。


皇帝親衛隊は、屋敷の中だというのに、馬に乗って赤茶色の無骨な甲冑を着込み、スピアを手に、陛下に同行する。陛下は闇に親しみ過ぎた人間であり、既に人間らしい日常会話言語を大幅に失いつつあると思われる。親衛隊は一言も喋らない。


静かな朝食が始まる。陛下はスクランブルエッグを召される。幼児の頭ほどある青銅の茶碗に山盛りになった、黄色いそれを黙々と口に運ぶ。


マティウス陛下の様子をじっと見守る、老年執事のケンチブス氏は、日常言語を喪失してゆく陛下の微細な表情や態度を読み取って他の者に通訳する、大切な役目を担っている。

陛下は時に「たう、たうう」とか「ガッグウガガッッ」などという、不可思議な発声によって意思を伝達しようとする。これは執事歴10年目のケンチブス氏でなくては解読が務まらない代物であり、着任歴の浅い衛兵などは、うろたえて失禁することもあるのだ。ジャジャー。


陛下はたまご酒をジョッキで3杯ほど飲んだ。今日はご機嫌がすこぶる良いらしく、「だだあ、ダドアー」等と陽気に笑い、冗談を飛ばされるなど、微笑ましい光景に恵まれる食卓となった。お替わりはいかがですかとケンチブス執事が人の良い笑顔で尋ねると、陛下は蚊の泣くようなか細い声で、「ノウ、オナカ、いっ ぱいなり」、と答えた。


陛下の下にデザートが運ばれた。上品な輪島塗を思わせるダークガラスの椀に、とてつもなく鮮度の優れた生卵が一つ、浮かんでいる。椀は内側までも暗く、漆黒の闇に浮かんだ黄色い球体は、その柔らかさ、所在無さげな様子を、引き立たせる。マティウス陛下の最も愛するメニューの一つである。


陛下は、古代中国の皇帝が上等な金魚をそうしたように、器の中に揺らめく黄身を愛しそうに見詰め、ひとしきり愛でた後、舌先や前歯を使ってそれを弄ぶ。柔らかな球体を口に含んではブッと出し、また口に含んで頬の中で転がす、というようなお戯れを十分ほど繰り返した後、陛下は半ば崩れかかった黄身を飲み込んだ。


マティウス陛下の一日が始まる。帝国の民人や仕官者らは、この世の動乱、不穏な戦争騒ぎを既に感じ取っている。戦地を色濃く覆っていると言われる、超微粒子の砂嵐の気配が、既にこの帝国にも訪れ始めていた。マティウス陛下はシャンデリアに向かって一掴みのキャビアを投げ付け、傍に居た衛兵は、後掃除が大変だった。





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