告白。ただ、どうしようもない、告白。

2003年03月06日(木) 死ぬから

何度かそうやって病院からタクシーを使って帰ってきた姉。

ある日、姉が切羽詰まった様子でトイレに逃げ込んで内から鍵をかけた。
後から追ってくる声。
祖父の、声。

「○○(姉の名)、出てこい!」

祖父は興奮した声でトイレの戸を叩く。

「嫌や、どっかいってあっちいって来んといて!!」

姉は叫ぶ。
姉の興奮した叫びに、祖父は激昂する。

「はよ出てこい!
 病院戻らなあかん!
 出て来なこの扉潰すよ!」

姉は涙混じりの声で叫び返す。

「もういいから!
 どっかいって!
 もう死ぬから!」

「死ぬんやったら死んだらええ!
 でもそこで死ぬな!どっか別のとこで死んで!
 うちの家で死なんといて!」

「そこどいたら死ぬから!
 あんたがどっか行ったら死ぬから!」

「とにかく出てこい!
 ほんまに扉潰すよ!」

何度かの遣り取り。
止める母、祖母の声。

「カナヅチ持ってこい!
 この扉壊したる!」

興奮が収まらない祖父、戸を叩く音が酷くなる。



私は。

私は。

興奮した二人の声と、必死に止める母、祖母の声を聞きながら、
逆にどんどん冷めた気持ちで考えてた。


だったら、今すぐその窓から飛び降りれば良いのに。


そう思ってた。


トイレには窓がある。
死ぬには高さが足りてないけれど、飛び降りる事は出来る。
死ぬという言葉、そのパフォーマンスは充分出来る。


「後で死ぬから。」

なんで?

死ぬと言うんだったら、とりあえずそこの窓から飛び降りれば良いじゃない。


死ぬというのなら、今すぐその行動を起こせ。


暗い気持ちで考えてた。
二人が出て来いだのもう死ぬだのを叫び合う声を聞きながら、
私は逆にどんどん頭の中が冷めていくのを感じながら、
滑稽なほど必死な二人の声を他人事のように聞きながら、
ずっとずっと、考えてた。


死ぬというのなら、今すぐ飛び降りろ。
できないのに死ぬなんて言うな。
貴方の死を期待させるな。


母と祖母が祖父を何とか宥めて別の場所へ連れていくまで、ずっとずっと考えてた。

結局姉は死ななかったけど。
やっぱり姉は死ななかったけど。


私は姉が死ぬのを期待していた。




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深海 [MAIL]

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