最初は、声を掛けた。
「何で学校行かんのや?」
姉は、答えなかった。
「何で何も言わんのや?」
姉は、答えなかった。
ああ、追記しよう。 祖父は気が短い人でもあった。 かっとなりやすい人でもあった。
何も答えずにぼーっとしている姉に、祖父は怒った。 祖父の世界では、子供は学校へ行くもの。それ以外は許せない事。
「学校へ行かんのやったら出て行け!」
それでも姉は、何も答えなかった。
だから、祖父は実力行使に出た。 姉を外に捨てようとした。
でも人間って重いよね。 玄関先まで引きずっていくことは出来たけれど、それ以上は無理だった。 母や祖母も祖父の行動を止めようとしたし、だからそれは不可能だった。 姉を玄関に落としたまま、母や祖母は祖父を何とか説得していた。
この間、ずっと姉は無抵抗だった。されるがまま、引きずられるがままだった。 祖父に落とされた場所に座って、ぼーっとしていた。
この人はどうしたんだろう。
そう、思った。 姉が怖くなった。 どうしようもなく、怖くなった。
私の姉に対する今までの感情が「恐い」なら、この時から「怖い」に変化したと思う。 このニュアンス、分かってもらえるかな。 以前はもっと物理的な恐怖だったのだけれど、この頃からは心理的な恐怖に変わった感じ。 あ、でも物理的といっても暴力を振るわれたとかそういう直接的なものじゃなくて。 「分かる恐怖」から「分からない恐怖」に変わったというか…うーん。 気持ちの表現って難しいや。
貴方は気付いていない。 その言葉もまた人を苦しめている事に。
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