パラダイムチェンジ

2007年03月06日(火) ゲキシネ「髑髏城の七人〜アカドクロ・アオドクロ〜」

先週、新宿のバルト9に劇団☆新感線の舞台を映像化したゲキシネ
「髑髏城の七人」のアカドクロバージョンアオドクロバージョン
見に行ってきた。

感想を一言でいえば、「演劇に疎い人でも、そんじょそこらの映画
よりは楽しめるんじゃないかな」である。

劇団☆新感線については、以前「メタルマクベス」を見に行ったときにも
何か書いたと思うけど、最近TVドラマでも八面六臂?の活躍をしている
古田新太(顔の大きい人ね)や、かつては現在和泉元彌の奥さんになって
しまった羽野晶紀(そして旗揚げ当時は筧利夫や渡辺いっけいも)が所属
していた大阪の劇団で、私が演劇を見だした頃からチケット入手困難な
大人気の劇団で。

最近だと演目の一つ「阿修羅城の瞳」が映画化されたり、その映画や、
この「髑髏城の七人」などで市川染五郎とコラボ?したりと話題の劇団
なのだ。

そしてゲキシネというのは、そのチケット入手困難な劇団☆新感線の
舞台作品を東映と舞台の映像化・販売をしている「E! Oshibai」によって
劇場の大スクリーン&音響システムで楽しもうという企画であり。

実はこの「髑髏城の七人」は'04年に銀座で上映されたんだけど、その時
は残念ながら時間が合わず見られなかったのが、今回東映系のシネコン
であるバルト9のこけら落としに合わせて再び東京で見られることに
なり、今回は絶対に見ようと思っていたのである。
実際、舞台を映画のスクリーンで見るとどうなるのかな、という興味も
あったし。

でもね、私くらい底の浅い演劇ファンにしてみると、これは全然アリ
だと思うのである。

普通、やっぱり演劇は生で、役者の息づかいの感じられる劇場で見な
きゃつまらない、と思うじゃないですか。
役者と観客が一体になって一つの空気を作るところにライブの醍醐味が
あると思うわけだし。

そしてそれは音楽のライブでも同じだと思うんだけど、でも今回の
髑髏城の七人の、特にアオドクロに関しては、その会場で感じられる
空気感をも、映像の中に残すことに成功していると思うのだ。
それだけ、(多分デジタル&ハイビジョン?)で記録された映像は、臨場
感にあふれていて。

で、音楽のライブと比べて、演劇の映像化の場合、好きな役者の顔を
アップで見られるという特典の価値も高いと思うんだよね。
特に新感線のように超人気の公演の場合、たとえチケットが取れたと
しても後ろの方で、役者の姿が小さくしか見えない場合もある訳だし。

そのため、自分でも好きな公演の場合には、DVDを購入して、自宅で
楽しんだりしているわけだけど、でも、そこには一人(もしくは数人で)
見るという寂しさもあり。

それが今回のゲキシネの場合、劇場のいい音響システムの中で、大人数
の観客と一緒に見られた分、同じ舞台の映像化作品を見るにしても、
その劇場の雰囲気をもっと味わえるような気がして。

また、これだけ迫力のある映像だったら、普段演劇の公演って、東京と
大阪と他の数都市でしか行なわれないのが、地方のシネコンでも見られ
る訳だし、シネコン側にしても、人気劇団の演劇の映像化作品というの
は、ソフト不足を補い、またキラーコンテンツになる可能性もある訳
だし。

劇団側にしても、その作品のDVDの販売促進にもつながっていいこと
ずくめなんじゃないのかな。
実際、劇場で販売しているDVDを買おうかと思ったら、品切れになって
いたし。


という事で肝心の作品について触れると、アカドクロバージョン、
アオドクロバージョンとある通りに、同じ作品をキャストや演出方法を
変えて上演した作品で。

アカドクロバージョンには、古田新太、橋本じゅんなどの新感線の
メンバーに加えて、水野美紀、坂井真紀、佐藤仁美が参加しており、
アオドクロバージョンには、古田新太の代わりに市川染五郎、橋本
じゅんの代わりに元光GENJIの佐藤アツヒロ、水野美紀の代わりに
池内博之が出演し、周りを高田聖子などの新感線メンバーが飾って
おり。

物語は公式サイトに詳しいので、そちらを参考にしていただくとして、
この作品は、演出のいのうえひでのりの名前をとって、「いのうえ歌舞
伎」と呼ばれているらしく。

物語の筋書きは、これまで映画の「阿修羅城の瞳」、舞台の「メタルマクベス」を見てもそう思ったんだけど、割とおきまりの、というかワンパ
ターンの展開ではあるんだけど、でもその分、いのうえひでのりの、
役者を魅せる演出方法に冴えが際だっていると思うんだよね。

個人的に感じる新感線の舞台の魅力って、「男の色気と女の凛々しさ」
だと思うのだ。
どんな端役に至るまで、男にはその立ち姿に色気を感じるし、女には
凛々しさを感じるのである。

特に、「アカドクロ」の、水野美紀は格好良かったし、また佐藤仁美も、
同じ役をアオドクロでは鈴木杏がやっているんだけど、個人的には
佐藤仁美も(比べようがないくらいどちらもよかったんだけど)、印象に
残ったし。

そんな感じでアカドクロの方が割と役者を魅せてくれたのに対して、
アオドクロの方は、総合力で観客の目を引きつけてくれて。

アオドクロは松竹とのコラボという事もあり(考えてみればそれを東映
が配給しているのもすごいことだが)、花道ができてハードロックと
いう歌舞音曲がついた分、「傾(かぶ)いた」派手さがあり。

特に佐藤アツヒロが、ローラーのついたスニーカーで光GENJI時代を
ほうふつとさせてくれたり、また、アカドクロでは、古田新太、橋本
じゅんで充分笑いが取れたのを、主役が市川染五郎になった分、周りが
笑い分を充分補給してくれていて。
いやあ、もう久々に劇場で死ぬほど笑ったかも。

もう一つ感じたのは、カンパニーとしての劇団☆新感線の層の厚さで
ある。
例えば鴻上尚史の第三舞台や、野田秀樹の夢の遊民社、三谷幸喜の
東京サンシャインボーイズなどが解散あるいは休眠しているのに対し、
新感線はそれぞれの役者が人気になって各方面で活躍していても、
きちんとカンパニーとして残っている。
例えば、高田聖子は年を考えても(失礼)妖艶な演技をして、正に看板
女優だなあと思うし、河野まさとにしてもいい存在感を示しているし。

だから市川染五郎や佐藤アツヒロなどの人気俳優を外部から招いても、
プロデュース公演ではなく、ちゃんと新感線の舞台になっているのが
いいなあ、と思うんだよね。みんな安全基地というかホームグラウンド
で伸び伸びと演技しているのが、外部の人にもいい影響を与えている
感じがして。
なんていうのか、本当にみんなでエンターテインしている感じがうらや
ましいというか、見ていて楽しいのだ。

映像化作品とはいえ、この作品が(しかも大スクリーンで)今回観られた
ことに、素直に感謝したい気持ちで一杯なのである。

で、冒頭の感想に戻るとすれば、今の日本のTVドラマは特に、舞台で
活躍している人たちって、どうしても主役というよりは、脇で個性的な
役に甘んじているきらいがあると思うんだよね。
ちょっと前なら岸谷五朗が主役を演じられたけど、今ではそういうの
ってないと思うし。

でも、そういうTV以外に、舞台では役者の人たちがこんなにも生き生き
と活躍している場所があるんだ、と知ることは、普段最近のTVドラマや
映画はつまらないなあ、と思っている人にも新たな刺激を与えてくれる
んじゃないのかな、と思うのだ。

残念ながらアカドクロはもう公開が終了し、アオドクロも今週金曜日
まで、なんだけど、新感線の作品では現在は上川隆也と中川晃教の
ロックミュージカル「SHIROH」が上演されているし、またチラシによると
今週末からは野田秀樹が歌舞伎を作・演出した「野田版鼠小僧」を上演
する予定らしく。
野田版「鼠小僧」はやっぱり是非とも見たい作品なので、見に行こうと
思います。


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harry [MAIL] [HOMEPAGE]

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