どこで飲もうか?と、ハルは昔と変わらず、私の意見を聞いてくる。
どこでもいいよ。と、私も昔と変わらず、ハルまかせ。
街頭で配っている割引券を貰って、カラオケに入る。
「二人でカラオケ、なんてシチュエーション、最近全くないし、すごく新鮮」
ハルは笑う。
私はきっと、強張っていた、と思う。
変な緊張が、ずっとあった。
後悔も、同じくらいあった。
なんで、ついてきちゃったんだろう、とか。
なんで、今日は一人で新宿にいるんだろう、とか。
わけの分からない後悔をしていた。
カラオケなのに歌わないで、話しながら飲む。
なんだかすごく場違いだった。
重たくなる気持ちとは裏腹に、ハルはこの3年間の話をいろいろとしてきた。
私は上の空だった。
なんかの話で、私が「うん」といったとき。
「相変わらず、人の話を聞いてないんだな(笑)」
と言われた。
「ごめん」
「大丈夫、慣れてるから(笑)」
「・・・ごめん」
しばらく沈黙になって。
「あの時はごめん」
ハルが突然、謝りだした。
「あの時?」
「別れる話になった、あの話」
「あぁ・・・」
ハルが私の親のことをいろいろ言ってきたことだ。
でも、もう昔々の話。
私は今更謝られても、なんとも思わなかったし。
むしろ、そんなことを忘れていたくらいだ。
私の3年間は、それほどいろいろあった。
「ちゃんと、会って謝らなきゃって思ってたよ。ずっと罪悪感があったんだ」
「気にしてないし、大丈夫」
ほんと、気にしてない。
些細なことだ。
結局、時間が経つって事は。
そう言うものなのかもしれない。
「・・・もしも、あれがなかったら、俺たちなんか変わってた?」
私はちょっと考えて。
「ううん、変わってない。今と一緒。こんな人がたくさんいる街で、3年ぶり!!って再開してたと思う」
「そっか、そうだよね」
2時間のカラオケは、最初の30分はものすごく長く感じられたけど。
残りの1時間半はあっという間だった。
最初の後悔は消えていて。
会えたことは、よかったかもしれない、とまで思っていた。
「またね」
と、改札でハルに言ってしまった。
普通に、友達と別れるときに言うみたいに、気軽に。
ハルは、満面の笑みで「またね!」と手を出した。
私がその手をじっと見ていたら。
「握手!」とやっぱり笑顔で言われた。
私は、少し酔っていたのかもしれない。
その手に応じてしまう。
ずっと、大好きだった大きな手は。
驚くほど、自然だった。
まるで、今まで、ついさっきまでも、ずっと握っていたみたいに。
懐かしい、とかそういう感情は全くなくて。
思えば。
私たちは、手をつなぐことから始まったんだったね。
私は、既婚者と言う身分でありながら。
あなたの手を取ったんだった。
そこから。
長い長い、苦しむであろう道を分かっていながら。
でもさ。
私は、今本当にあなたと出会えたことや。
あのときに手を取ったことを後悔していないんだよ。
あのときがあるから、私は今現在こうしてここにいるんだから。
大感謝、してるんだよ。
ぼんやり、握手した手を見ていたら。
「またね!」
と、もう一度言われて。
頭をポンッと叩かれた。
電車の中で。
ハルからメールが来た。
「今日は本当に会えてよかったよ。 今までずっとたまっていたことが、やっと言えて。 吹っ切れた、と言うか、すっきりした!
りりか、幸せになってね。
それが、俺の今一番の願いです。
おばちゃんになる前に、早く結婚決めちゃいなさい!」
「もうすでにおばちゃんですよ・・・」
そう返そうとして、やめた。
少し込んでいる電車の中でぼんやりする。
逃げる様にしてハルの元から去り。
たくさん苦しめたけど。
今は私は充分幸せで。
ハルも、きっと幸せだろう、と思ってた。
きっと、私と別れたと言うことが、解放という形になって。
幸せな毎日なんだろう、って。
3日後。
「お願いがあるんだけど」
ハルからのメールが来るまでは。
そう思っていた。
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