OH GREAT RABI RABI

ここからはいつもうみがみえる

木彫りのねこがテレビのうえにこしかけている。
昨夜、おとうとの門歯がぬけた。
ねこは笑わなかったけれど
すこし、ひげをゆらした。

今朝、わたしのスカートはくすぶっている。
わたしのなかでちいさな火事があったからだという。
母親はきんと冷えたうがいをしながら
わたしを送りだす。
バスから降りるころには太腿にやけどができている。
わたしはまほうのゆびについて考える。

ここからはいつもうみがみえる。
おとうとの学校には風は吹かない。
せんせいがおおきなシーツを張って
風をころしているから。
ろくじかんめははたおりのじぎょう。
おとうとがほこらしげに云う。
はたをつくってせんせいをてつだうんだ。

わたしのともだち。
今朝は十人にふえている。
どの娘もむらさきいろで、
教室にはうすい雨が降っているよう。
せせらぐということばで会話をする。

ここからはいつもうみがみえる。
飛行機の音がさかんに空を往き来する。
空に属するものは、この街から
すでにとおいところに行ってしまった。
ここには音だけがのこっている。

屋上でわたしはまほうのゆびと出会う。
まほうのゆびはしろくうみはじめたやけどにくちづけをする。
ひかりのはやさでかもめがよこぎる。
いまのはまぼろし。
わたしたちはおなじまぼろしをみている。
だから、ここからはいつもうみがみえる。
わたしは目を閉じて
今日、わたしのなかで死んだ白血球の数をかぞえはじめる。

かえりのバスでふたたびまぼろしをみる。
まぼろしの埠頭で
空をささえるようにシーツを張る先生とその傍で
旗を掲げるおとうとたち。
不意に、つよい風が襲い
おとうとたちは風を受け、ばらばらと
まぼろしのうみにおちていく。

屋根にはひだまりのようにちいさな歯が積もっていた。
ベランダからひとつかみして、居間にもどる。
ねこは窓辺に位置を変えている。
てのひらから歯を摘まみ、投げつける。
うつくしい放物線にわたしは見とれる。
わたしは彼を撃ちおとすことに
午後をついやした。