自由研究 変色したあさがおの鉢を抱えて ユウラシはぼくに会いに来た。 本当の夏はまだ来ていない。 あまりに続く雨が、 ぼくたちの視界を錯覚させた。 プールと。 プールはヨウ素液で満ちる。 浮かぶぼくたちの腹部は さかなのように膨れ すみれいろに染まる。 雨も花のいろをしている。 匂いだけが流されていき 川ができる。 ひとりのユウラシがそこでおぼれる。 水かきがあるのだ、 と 彼女は秘密をうちあける。 わたしはくるぶしに寄生した青い花を見せる。 すべては雨のせい。 姉さんが泣くのだもの。 髪の一本一本に生えた水かきをむしるのに ぼくたちは午前いっぱいをついやした。 雨のせいだ。 とうめいな虫が育っているのだけど 雨の縦線にまぎれてしまった。 たまごはとてもしろい。 泡を吹くように敷石のすきまに溜まっている。 あさがおの肥料だと云って ぼくはユウラシの鉢にたまごをかむせた。 観察するユウラシをぼくたちはわらう。 まだ雨はやんでないのに。 ユウラシはりすの名前をひじょうに大切にしている。 ユウラシはりすなんて飼っていない。 けれどもユウラシはこぶしのなかを覗いてりすの名前を呼ぶ。 ユウラシはあさがおに名前をつけない。 ユウラシは無声音でどなる。 その瞬間 雨は上昇し また何事もなかったように落ちてくる。 これも二度めの雨だ。 無数のあさがおが寄せられて ひとつの花になり ドミノのように色を変えていく。 雨の折りかえしである。 きみの姉さんに、 と ことづけてユウラシは鉢を置いていく。 そのなかで孵化した虫が 根を巣くっている。たまご。ぼくの埋めた。 号令に耳をすます。 口笛を吹くと ユウラシがいっせいに耳をたてるから 吹かない。 グレイといういろの あらゆる変化をぼくたちは目にする。 ぼくたちは呟く。 雨のせい。 雨のせいだ。
天窓 りんご、えとせとら、えとせとら、 まず字引きをひきます つぎにヘリコプターを飛ばします そこでもういちど りんご、りんご、えとせとら 字引きはかもめ。 くもりぞらにまもられて 肥大した かもめは一千対の翼をもつ (いんせくと) むしが降る 回転するプロペラによる切断、 てあしが降るよう 息がつまるよう と わたしをふくまない世界がむせている りんご、りんご、げっこうちょう。 おばさまは彫刻になりました とりのおしっこがかかるから 天窓をしめておくよう いいつけられたの に 夜というじをひいた。 スモーク むしの襲来 帳 とりの不在、 わたしは発話した。 おぶじえ、 ちがう。オブジェ。 わたしは発話する。 すべてのものはとても器用で ヘリコプターすら無音で飛ぶ 翼をつんで、背をのばす 天窓にはとどかない わたしは発話する、 かなぶん、へりこぷたー、ふらい、ふらい、ふらい! (リピート・アフタ・ミ、) (オブジェクト) (おぶじえ) (オブジェクト) くもりぞらにまもられる、 わたしはそのすべてにふくまれていなかった。 りんご。えとせとら、えとせとら、 (・・・・・・オブジェ) はりすぎたつまさきはきれてしまった。 もうとどかない。 とどかない。
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