再生するタワゴトver.5
りばいぶ



 毎日新聞、「日々是、感劇 」『島口説』劇評。

艦砲ぬ喰ぇぬくさー
毎日新聞 2018年7月26日 東京夕刊

 沖縄戦で多くの死者を出し、地形まで変えた米軍の艦砲射撃。「艦砲ぬ喰(く)ぇぬくさー」、すなわち、生き残った者は艦砲射撃の食い残しという沖縄の言葉が、激しさと複雑な思いを物語る。

 その生き残りである主人公スミ子の波乱の半生を描く芝居を、台風が迫る沖縄で見た。笑い、そして泣いた。


 エーシーオー沖縄「島口説(しまくどぅち)」(6月29日〜7月1日、国立劇場おきなわ小劇場、謝名元慶福(じゃなもとけいふく)作、藤井ごう演出)。本土復帰から7年後、1979年に沖縄芝居の女優、北島角子の一人芝居として初演され、上演を重ねてきた。32年ぶりの今回は、沖縄の漫才コンビ、泉&やよい(喜舎場泉、城間やよい)による二人芝居という新演出だ。

 夫となる朝栄との出会いのときめき、一転、敗戦後の米軍支配下における息子や夫の死の悲痛、コザ騒動。沖縄の戦中・戦後をくぐり抜けてきたスミ子を2人が交互に演じることで、より立体的に浮かび上がり、心を揺さぶった。劇中で空気を裂く米軍の爆撃機B52の音に、今なお基地問題に揺れる沖縄の現状がシンクロする。ぜひ本土でこそ上演を。(抜粋)

2018年07月27日(金)



 『島口説』琉球新報、劇評。


沖縄の苦難の歴史を泣き笑いで表現 お笑いコンビ泉&やよいの「島口説」

エーシーオー沖縄主催の演劇「島口説(しまくどぅち)」(謝名元慶福脚本、藤井ごう演出)が6月30日から7月1日まで浦添市の国立劇場おきなわで上演された。名女優・北島角子が演じていた一人芝居を、お笑いコンビ「泉&やよい」の喜舎場泉と城間やよいによる“二人芝居”で復活させた。2人の人なつっこさや温かさ、絶妙な掛け合いを生かし、新たな島口説を生み出した。初日を取材した。

 舞台は観光客が訪れる民謡酒場から始まる。半生を語り出す酒場の女主人スミ子。2人が交互にスミ子を演じることで舞台を重層的にした。

 序盤にスミ子を演じたのは泉。とある離島で暮らす若きスミ子は、父の紹介で寡黙だが心優しい朝栄と結婚する。一方、やよい演じる親友トシちゃんは本島へ働きに出る。「本当に、本島に行くよ」というベタなしゃれを繰り返し、つい笑ってしまう。

 スミ子は朝栄の故郷の島へ嫁いでいく。干潮に歩いて島へ渡る光景を泉が生き生きと演じた。だが島の暮らしは過酷でもある。2人の間に男の子が生まれるが、ある日高熱を出す。台風で海を渡れず、子どもは治療を受けることができずに命を落とす。その後朝栄は米軍基地で働き、復帰運動にも参加するが、解雇される。生きる意欲を失い自ら命を絶つ。

 沖縄戦、米軍による土地の強制接収、コザ騒動―。スミ子と家族の人生を通して、時に歌い、踊りながら苦難と闘ったウチナーンチュの歴史が泣き笑いの演技で描かれた。

 物語を象徴するのが、2人が歌う「艦砲ぬ喰ぇー残さー」。うまいというわけではないが、親しみやすい雰囲気で観客の心をつかんだ。琉球舞踊家でもあるやよいは劇中で踊りを披露し、舞台に沖縄らしい香りをもたらした。

 公演後、泉は「母からよく戦争体験を聞かされていたけど、演じていてスミ子の人生と重なった」と振り返った。やよいは「お客さんが支えてくれた。ウチナーンチュの誰もが経験していることをお客さんと共有できた。米軍に抗議する場面など沖縄の実情は変わらないとも感じた」と話した。観劇した謝名元は「新しい『島口説』がスタートした日だ。演出が2人の良さを引き出した」と評価した。

 「島口説」は1979年に東京で初演され、全国で300回公演を重ねたが、86年を最後に上演が途絶えていた。プロデューサーの下山久が脚本を読み返して「沖縄の現実は変わっていない」と感じ、今回の再演が企画された。復活した「島口説」も東京をはじめ全国で上演されることを期待したい。

 プログラムには謝名元が初演時に書いた言葉が掲載された。今も沖縄が揺れ動く中、私たちの心に響いてくる。「僕たちに失われているもの それは、僕や君の呼吸のひとつびとつが 歴史をつくっている自覚と 時代に真正面から 向きあうことではないか だから島の歌(口説)を みんなに聞かせたい」 (伊佐尚記)

2018年07月18日(水)



 『島口説』沖縄タイムス劇評。

 

「島口説」斬新に表現/泉&やよい 2人1役/沖縄伝える 笑いと涙
2018年7月10日朝刊芸能22面芸能
 女性の視点を通して沖縄の苦難の歴史を描いた芝居「島口説」(脚本・謝名元慶福、演出・藤井ごう)公演が6月29日〜7月1日に浦添市の国立劇場おきなわであった。お笑いコンビ「泉&やよい」の喜舎場泉と城間やよいが民謡酒場の女主人、山城スミ子を演じ、「離島苦」「沖縄戦」「アメリカ世」などの沖縄の歴史を、戦後生まれの視点で斬新に表現した。(学芸部・天久仁)

「島口説」は1979年に故北島角子が一人芝居として初演。新たな作品は喜舎場と城間がスミ子を演じ分け、時には2人のスミ子が同時に舞台に登場した。城間が「まぎー、にーびち」と言えば、喜舎場が「大きな結婚祝い」と続けるように、しまくとぅばとその通訳をコントに仕立てた掛け合いで、冒頭から息の合ったコンビを見せる。

 物語でスミ子は17歳で結婚し、離島に嫁ぐ。優しい夫と長男に恵まれて幸せに暮らしながらも、台風の日、病気の幼児を本島の医者にみせることができずに亡くしてしまう。夫は船大工の仕事を捨て、米軍基地内で働くも、大量解雇によって職を失い、失意の中で自ら命を絶つ。

 舞台の前半では結婚や島の暮らしぶり、沖縄の人同士の交流が素朴に描かれる一方、後半は米軍による土地の強制収容や復帰闘争、コザ暴動など戦後沖縄の不条理が畳み掛けるように描写される。スミ子が振り返る沖縄戦後史は彼女の人生と同様に起伏が激しく、他者に翻弄(ほんろう)されてばかりだ。

 藤井は79年の初演時の台本を読み「今の沖縄の状況と何も変わっていない」と感じたという。新たな演出による泉&やよいのスミ子は、自分の人生と沖縄で起こった悲劇をしまくとぅばの語感のおもしろさと、絶妙な掛け合いで逆に笑い飛ばした。

 頻繁に客席に語り掛け、劇場全体で戦後史を共有することを促すスミ子は、戦争や戦後史を知らない世代だけでなく、戦争体験者がいなくなった沖縄に向けてメッセージを発しているようにも見えた。本格的な芝居は初挑戦の城間、喜舎場が新境地を開いた。新たな「スミ子」が今後どのような語り部になって、芝居の世界に浸透していくか注目される。



2018年07月11日(水)
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