ユナイテッド93
2001年、911同時多発テロの際、ハイジャックされた4機の旅客機のうち、 目的地に到着せずに墜落した1機の物語。2006年、米/英。
専門用語が多そうな映画なんで、字幕が戸田奈津子氏で正直「うへぇ」と 思ったんですよね。いやなんかもう、翻訳がどうとかで騒いどる場合じゃ なかった。見てると圧倒的な重さで迫ってくるんですわ。 事実が。
実際のところ、操縦席のドアは映画のように破られてはなかった らしいんですよね。乗客が本当に蜂起したかどうかも定かではないし。 本当は米軍のF-16戦闘機に撃墜されたんじゃないかって説もある。 遺族への綿密なインタビューを重ねてキャラ立てをしたそうですけど、 機内で起こったことは全部憶測(しかも遺族の希望が多分に入った)でしかない。 テロのパイロット役の男が、空港のロビーで携帯電話に向かって 「愛してる」と言うシーンなんか、モロに「演出」だ。
それでも、絵空事の間に事実は確かにそこにあった。 乗員も乗客も管制のひとたちも軍のひとたちもテロリストのひとたちでさえも、 一人の人間としてしか描かれてなかった。 ヒーローもモンスターも誰一人としていなかった。 みんな普通の人間だった。 普通の人しかいないのに、旅客機を武器にテロを起こすという 信じられない悪意と、到底自分が直面するとは思えないがその可能性も ゼロとは言い切れない恐怖と混乱が、あそこには確かにあったのだ。
携帯で家族に、遺言が入ってる金庫の番号を伝えたおばあちゃん、 極限状況下でなんであんなにスラスラと数字が言えたんだろう。 娘の誕生日の逆読みとかだろうか。家族を亡くして一通り泣いた娘は、 そのことに思い当たってもう一度泣くんだろうか。 「助かったらもうこの仕事を辞める」と言ったCAがいたけど、 テロに遭わなかった他の機のCA達は、今後どんな気持ちで仕事を続けるんだろう。 自分も家族のためにはいつかは辞めるべきだと思いつつも、 今はまだそのときではないと自分に言い聞かせて踏ん張るんだろうか。 そしてパイロット役の男が「愛している」と*誰にも繋がってない*携帯に 向かって言ったのは、あれは本当は誰に言った言葉だったんだろう。
批評系サイトをザラッと見て周ったら、監督本人のイデオロギーがないことを 理由に批判する意見を見ましたが、私にはむしろそれが良かったです。 ヘタに乗員乗客の勇気が称えられていたりテロリストが理解不能な怪物として 描かれていたりあからさまな反戦メッセージが込められていたり(根底には ガッツリと込められてはいます が!)したら、シラケてるところだった。 良い映画でした。 見れて良かった。
ところで空のラッシュで離陸が30分も遅れたり、交信の取れなくなった 航空機があるのにそれが20分以上も中央の管制局に伝わってこなかったりと、 普通に「えー?」って思ったことがいくつかあったんだけど、…あの時間って、 4000機以上もの航空機が合衆国上空を飛び交ってたのな・・・お国柄よなあ。
2006年09月09日(土)
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