2004年10月16日(土) |
『希望、二つ、300円』(仮) 短編 |
ゲームセンターの外に出ると、先ほどまで雨が降っていたらしく、自転車のサドルがぬれていた。 僕は右手で少しサドルを拭って、自転車にまたがって走り出した。 久しぶりに希望屋に行こうと思う。僕には今、希望がないから。
大通りから二本くらい外れた小さな道にある駄菓子屋の隣に希望屋はある。 小さく『きぼう屋』と書かれた看板が軒先に下がっている。 中に入っていくと、双子のジルミとラルミが奥に座っているのが見える。 この二人の年はよくわからない、昔から変わってないような気がする。 周りには風船のような大きな玉や真珠くらいの小さな玉までいろんな大きさの玉が置いてある。 色とりどりで、どれも美しい。 僕はその中から二番目に安い水風船のような150円の玉を二つ取り、双子のところへ持っていった。 淡い水色をした玉だった。
僕は二つの希望を自転車のハンドルの両側にぶら下げ、坂道を駆けのぼっていった。 僕の気に入っている丘にある公園まで、僕は一生懸命にペダルをこいでいった。 公園にはいつものように誰もいなく、僕は自転車を置いて二つの希望をもって、ジャングルジムに向かった。 ジャングルジムに一番高いところに腰を掛けて座ると、町並みがよく見える。 ここにはいつも涼しい風が吹いている。
僕が希望を軽く上に放り投げると、希望はふわふわと落ちてくる。 ポーン、ポーンとそれを何度か繰り返す。
そして僕はジャングルジムの上立ち上がり、希望をひとつ思いっきり遠くに向かって投げた。 軽い希望は風に乗ってどこまでも遠くに飛んでいく。遠くへ、遠くへ。 きっとどこかで、誰かが希望を拾うだろう。
それから、残ったもうひとつの希望を両手で包み込み、唇をそっと当てる。 すると、希望は口から僕の身体の中へ入ってきて、僕の中をめぐる。 僕は少しだけ気分がよくなり、少し笑いながら、自転車で坂を駆け下りていく。
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