hazy-mind

2004年05月26日(水) 『あるたびねずみの夢とナキウサギの歌について』 童話?




気がつくと 誰かが目のまえに 立っていた

そしてぼくをみつけて いった

ねぇ きいて
私は たまに 変わりたいと おもうの だけど
私は たまに 変わって欲しくないと おもうの


すこし あせりながら
こまったように 誰かが いった

ぼくは それはエゴだと おもったけれども
ぼくは なぜだかすこし うれしくて すこし わらった

彼女は 何度も いって きたけど
ぼくは ただ すこし わらいながら きいていた

彼女は ぼくに 答をもとめては いないと おもって いたから


ねぇきいて
私はたまに変わりたいと思うの
でも
私はたまに変わって欲しくないと思うの




・・・




ぼくが目を覚ました時、ぼくはナキウサギの巣穴の中にいた。
外はもう暗くて、月が出ていた。

月見草の花が咲いていた。
とても静かな、しろい花だった。

近くの岩の上でナキウサギがうたっていた。

 にげた にげた 世界はすこし変な色をしているよ・・・


ぼくはナキウサギにきいてみた。

 あの月はのぼっていくの それとも くだっていくの


ナキウサギはすぐにうたをやめ、こういった。

 のぼっていくんだよ 安心しな 夜はまだ始まったばかりだよ


すこし嬉しそうな顔をしてから、ナキウサギは話をつづけた。

 ところで今日はいいかげんな夜だね
 とてもいいかげんな夜だと思うんだ

 ほら 右足を上げてみてよ
 そう こうやってさ


そういってナキウサギが片足を上げてみせたから、ぼくも右足をあげてみた。
それをみてからナキウサギはこういった。

 どうだい 楽しいかい
 ぼくはちっとも楽しくないよ

 ね いいかげんな夜だろ

それからまたナキウサギはうたいだした。

 にげた にげた 世界はすこし変な色をしているよ・・・



ぼくはすこし散歩しようとおもい、泉のあたりまで歩いていった。


今日の月は、満月ではないけれど、とてもきれいな色。。
でもぼくは、月の色の名前を知らない。


泉には、こうさぎと老うさぎがいて話をしていた。


こうさぎがいった。

 ぎぜんてなに

老うさぎがこたえた。

 だれかのためにいいことをすることだよ



その会話をきいたぼくは、すこし悲しい気持ちになったから、
泉の水をすこしだけ手ですくって飲んだあと、
すこし濡れた手で、鼻の頭をさわってから、
ナキウサギの巣穴まで戻ることにした。



途中でミミズクに逢った。

ミミズクがうれしそうにいった


 とてもおいしい樹の実をみつけたんだ
 その樹はすこし北にあるんだけどね
 あんなにおいしいものは食べたことが無いよ
 

良かったね、と、ぼくがいうと、
ミミズクはすこし悲しそうな顔をして何処かへ飛んだ。

ぼくはもっと悲しい気持ちになった。



ナキウサギの巣穴まで戻ると、ナキウサギはまだ岩の上でうたっていた。


 にげた にげた 世界はすこし変な色をしているよ・・・


ナキウサギははぼくに気づくとうたをやめて、こういった。

 空にはまだ月があるよ
 どこまでたかくのぼるんだろう

 新しいくつが欲しいな
 高いところから落ちても平気なくつ
 そういうくつがほしいんだ

 無意味かな


ぼくはそんなことはないとおもったから、首を横にふった。

ナキウサギはすこし笑ってありがとうといった。

それからまた話し始めた。


 冷たい目をした人の手は暖かかったよ
 その人は時間を数えるんだ
 綺麗な時計の針をみながら
 1 2 3 って
 
 だからぼくは椅子を壊さないでまっているんだよ。
 こうやって、まっているんだよ

 椅子はぼくの頭の中にあるのさ
 ぼくの頭の中にはいつも椅子があるんだ


ぼくにはナキウサギのいっていることがよくわからなかった。

ぼくはなんだかとても、すこし北にある樹の実を食べたくなった。



ぼくはきいた。

 
 ねぇ きみは
 変わりたいとはおもわないの


ナキウサギは答えた。


 おもわないよ


ぼくは、そう、といってから、
巣穴の中に入ってまた眠ることにした。



チ、チ、とナキウサギの鳴き声がきこえてきた。

ぼくの知らない言葉でないていた。





・・・










 記憶の中で 君は 三度わらった


 気がつくと そこはすずしくて
 君とぼくは背中をあわせてすわっていた


 長いあいだそうしていたようで
 ぼくはもうなにをみていいのかわからなかったから

 そっと 空をみていた



 ありがとう

 そう 君はいった


 ずっと 支えてくれて ありがとう



 君がそういった時
 

 ぼくは 後ろに倒れて空をみていた


 ぼくは目を閉じて つぶやいた

 
 ちがう ちがう

 ささえられてたのは ぼくなんだ




・・・





ぼくが目を覚ました時、ぼくはナキウサギの巣穴の中にいた。


たぶん、どんな夢をみても、世界は変わらない、と、おもう。
時間がすこし、うごくだけだ、と、おもう。

おもうんだ。


外に出てみると、ナキウサギが岩の上で空を眺めていた。


月見草はしぼんでいた。
なんで月見草は、しぼむとすこし紅くなるのだろう。


月見草は月がみえるときにしか咲けないし、
ナキウサギは月がみえるときにしかうたえないから。

いまはただ・・・

なんだろう、空を。
空を、ただ、なんだろう。

なんだろう、みんななんで空をみているのだろう。



空はすこしだけさっきみた空と似ていた。


ぼくはなんだかとてものどが渇いたから、
露草にについている露を舐めた。

露草には若葉がはえていたからすこしかじった。
あまりあじがしなかった。
ぼくはまた、すこし北にある樹の実を食べたくなった。



手に露をすこしだけつけて、耳をさわってから、
昨日の月がどこまでのぼったのかを、ナキウサギにきこうとおもった。




だけど。




 空にあるアレはなに


そう、先にナキウサギにきかれた。

でもぼくにはそれがなにかわからなかった。


ぼくがそれに答えられずに黙っていたら
空をみあげたままナキウサギがいった。




 ねぇ、きみ

 きみはさ もうすこし


 もうすこしさ わらいなよ

 もうすこし さ


 わらいなよ



そう、ナキウサギにいわれたんだ。



ぼくは空をみあげたけれど、すこしまぶしかったから、
右腕をあげて両目の上をおおった。


でも、空がみえなくなったから、
すぐに、腕を、おろした。





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