安物好き

 にょらは安いキャットフードが好きだ。たまにご褒美にかつおぶしやいりこをもらう程度で、ふだんはドライのキャットフードのみ。よく飽きないものだ。しかもセールになっているもので十分なのだ。
 以前、旅行先のネコグッズのお店でキャットフードをおみやげに買って帰ったことがある。かわいい小袋に入っていてやたら高かったのに、中身は見たところふつうのと変わらない。ところがにょらはクンクンにおいをかいだだけで、ちっとも食べてくれなかった。もう二度と高いものなんか買うもんかと思った。
 
 最近、キャットフードも年齢や目的別にさまざまなものが出ている。ヘアボール・コントロールというのをコマーシャルで見たときは心がひかれた。猫は体をなめるときに毛を飲み込んでしまうので、おなかの中でそれがたまって嘔吐などの原因になる。その毛玉を便と一緒に出してくれるのが、ヘアボール・コントロールのキャットフードらしい。
 さっそく買いに行った。……高い。いつものやつの4倍はする。お財布の中身とにょらの安物好きが気にかかり、しばらく悩んだが、買うことにした。
 最初のうちはいつものフードに混ぜて与えよとあったので、少し入れてかきまぜておいた。
 しばらくしてにょらが食べ終えたころに見にいくと、なんと、ヘアボールのフードだけをじょうずに器の外に放り出してあるではないか! や、やはり高いのはダメだった。ショック! 

 その事件からしばらくたったきょう、別のメーカーのヘアボール・コントロールをみつけた。前のより安い。それになんとなくおいしそうだ(どこがだ?)。またしばらく迷ったが、もし猫が食べない場合は返金してくれると書いてあったので、買うことにした。
 家に帰るとにょらが迎えにきてくれたので、「にょらちゃんのごはん買ってきたよー。おいしいよ〜」と袋を見せながら、もったいぶってさんざんワクワクさせておいて、にょらの目の前でいつものフードに混ぜた。待ちきれない様子だったにょらは、すぐにがつがつとふた口。そこで「ん?」というように動きが止まった。う。またダメなのか?! ところが再びがつがつと勢いよく食べ始めた。ためしにヘアボールのだけを手に乗せて出してみると、やはりがつがつ。……おいしいらしい。ホッ。
 あとは効果を期待するのみだ。




2002年02月28日(木)



 オレオ

 アメリカに住んでいたころの話。

 裏庭でときどき見かける猫がいた。ある日声をかけてみると、うれしそうに寄ってきてごろんとひっくり返った。首輪にネームプレートがつけてあったので見てみると、Oreoと書いてある。白黒の猫なので、あのビスケットのオレオからとったのね〜と納得。
 どうもうちの裏庭が散歩コースに入っているらしい。雪の日に足跡をたどってみると、となりの裏庭から出てきてうちの裏庭を通り、反対どなりの裏庭に入って向こう側の通りへ出ていた。反対どなりの家には、いつも庭に出しているわけじゃないけど大きな犬が二匹いるのに、大丈夫だったのかしら。

 ある日のこと、窓のあたりになにか気配を感じたので見てみると、なんとオレオの顔がにゅ〜っと現れた。その窓は、猫が後足で立って手をのばしてやっと届くぐらいの高さにある。オレオは窓枠に手をかけて、懸垂のように腕の力だけであがってきたのだ。それまでも家に入りたそうにはしていたけど、万が一病気を持っていたらと思うと、にょらに接触させたくなかったので、中に入れたことはなかった。でも顔だけ出した状態でかたまっている姿があまりにかわいく、そしてそんなにうちに興味があるのかと思い、玄関をあけてやることにした。
 ウーウーうなって警戒しているにょらには目もくれず、まるで自分の家に帰ってきたような態度でずんずん奥へと入っていく。そしてダイニングテーブルの下ですっかりくつろいでしまった。
 こんな調子できっと別宅が何軒もあるにちがいない。好きなだけいさせてやりたかったけど、にょらがあんまりフレンドリーではないので、それ以来、外だけのおつきあいにさせてもらった。

 毎日外で会うのを楽しみにしていたのに、あるときからぱったりとこなくなってしまった。もしかしたら病気なのかも……と気になりながらも、そのうちわたしたちが帰国することになり、とうとうオレオには会えずじまいだった。どうしてるだろうか。


2002年02月01日(金)
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