ジョージ北峰の日記
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2007年04月08日(日) オーロラの伝説ー続き

 ドーターランドは、島の中程に2000m級の高山があり、山から海辺までは、大波、小波がうねるような起伏ある丘陵が続き、平地の所々に農地や牧草地が広がっていた。山から湧き出てくる冷たく豊かな水は網目の様に張りめぐられた灌漑用の川に流れ込み島全体を潤していた。牧草地には見たこともない多数の動物たちが放牧されていた。家畜としては極めて奇妙な格好の動物達で、しいて譬えれば山羊、陸上亀、ワニのような姿をしていた。私は「不思議な国へきたものだ」と可笑しくなった。
 山の裾野に入ると熱帯特有の大型の木々が太陽の光も通さないほど茂り、昼間と雖も(いえども)肌がひんやりと感じられる微風が何処からともなく吹きーー山肌には丈の低いシダの様な隠花植物がわずかな陽の光を求めてあちこちに分散、集落を形成していた。甘い植物の香りがほんのり漂い、平和な島の様相を象徴していた。
 私達が島に上陸した時は、まだ薄暗い明け方であったが、東の水平線はすでに一部朱に染まり波はすでに金色に輝き始めていた。

 地下都市に築かれたホールは野球場のドーム状で、所謂(いわゆる)観覧席にはラムダ国の中学生から高校生ぐらいの夥しい数の子供達が集まり、大歓声で戦士達を迎えていた。まるで戦勝した兵士たちが凱旋する映画のシーンを見ているようで、私の気持ちは高揚し武者震いした。
パトラが壇上に立つと、一段と高い声援と拍手が地響きのように沸き起こった。パトラは子供達にとっても英雄だったのだ。パトラが手を上げると、瞬時に騒ぎは静まった。
 パトラはラムダ国の言葉で演説していたので、私にとって意味は不明であったが戦士や子供たちの反応からは、ラムダ国の戦況が、必ずしも芳しくないらしいこと、そしてラムダ国戦士たちがこの島に上陸した理由、そしてそれでも最後に、ラムダ国がこの戦争には必ず勝利すると宣言したようだった。戦士も子供たちもパトラの言葉に湧き上がった。
それからベンが総大将として、簡単な兵力の配置、作戦などの命令を出したようだった。と、戦士も子供たちもホールからガヤガヤ何かを話しながらそれでも秩序を乱さず整然と引き上げていった。

 この国では、陸上戦は夜と決まっていた。従って夕暮れ時まで戦士は休息する。私は、他の戦士とは別に仮眠部屋を与えられた。小さな部屋だったがホテルの様にベッド、テーブル、水など飲物をいれた冷蔵庫や棚は準備されていた。勿論仕事に必要なコンピューターやテレビなども設置されていた。
 私はベッドに横になったが寝付けなかった。
 昨日からの激しい戦闘シーンが頭に残っていて、やはり精神状態は完全に戦いモードで高揚していたのだ。今夜の厳しい陸上戦のことを考えると睡眠が必要だった。昔、ラバウルで戦っていた日本空軍、歴戦のゼロ戦パイロットと言えども、度重なる敵の攻撃に休む間もなく、睡眠不足ままの戦を強いられ撃墜されることが多かった、と言う。良いパイロットかどうかは、どんな環境ででもすぐ眠れる図太い精神の持ち主か如何かだ、と聞いたことがある。しかし、私は気が焦ればあせるほど眠れないのだ。
 私は起き上がって、剣の素振りも繰り返した。無心になりたかったからだ。強いアルコールも飲んでみた。そして目を閉じて横になっていたが
、やはり目は覚める一方でどうしても寝付くことが出来なかった。
 どれほど時間が経過しただろう。やがて--そっと戸が開く音がした。
 なんと其処にはパトラが戦闘服姿のまま立っていた。私が驚いていると「眠れないようね!」と彼女は静かに囁き、ーー私の目の前で突然戦闘服を脱ぎ捨てたのである!

 その姿に私は一瞬息を呑んだ。顔、腕、太腿などは陽に焼けて黒褐色だったが、衣服に隠れた部分は、まばゆく白く輝いていた。オリンピックの水泳選手のような逞しい筋肉のふくらみに、緑に輝く黒髪が肩までかかっていた---女神が目前に現れたようで目が眩んだほどだった-----この世の人とは思えない神々しい姿(プロポーション)に私はただ圧倒された。 唖然としていた。言葉が出てこなかった。


ジョージ北峰 |MAIL