『 hi da ma ri - ra se n 』


「 シンプルに生き死にしたかった 」


2015年10月22日(木) 招いてない。


しずかな夜がみんなにくる。
ねこも
となりでねむるひとも
すっかりどこかでやすまっている。


ときどき、わけもなく叫びだしたくなるんだ。

胸からおなかのあたりがのたくってぐるぐるとうずまいて
発声とはちがうなにか、でさけびたいと
のたくって、あばれる。
ずしりとした粘土がうちがわがら外へ外へ
ぶちあたっている、みたいな。

……もしかしたらそういう言葉でない声をやりすごすために
なんらかの肉体をちぎることで、対処していたのかも、知れない。
文字どおり自分のそとがわに穴を開けることで。
ちいさくは、髪の毛一本の抜けることでも。

不穏当な発言であり気持ちであると
よくよく知っているけれど
それでも、今日もまた
わたしのなかに沈んだ粘土はなぜか起き上がって
ねじりながらのびあがる。

ねえいつまでこんな時間はやってくるのかな



神無月、ひざしの弱くあたたかかった日に
真火



2015年10月16日(金) さよならのきめられかた。

長いこと、おんなじ携帯電話をつかっている。
ひとつめは、スイカペンギン色のみどりのずっしりしたの。
沖縄にふらりと行ってくると言ったら父が持っていけと直前に買ってくれた
…ので、メールの書き方もさっぱりわからないし
アドレス帳の使い方もわからないで、そらで言える番号しかかけられない
なんだか、携帯しているだけ電話、な旅だったように、おもう。

その携帯のサービスを完全に休止するので機種変更してください、と
会社から連絡がきてとりかえた二台め。
オレンジピンクの当時のサイシン機種、らしかったけど
むだに、国際対応だし。

この春の会話。

ねえ、最近、がらけー、ってよく言うけど、あれなあに?
きみが使ってるやつだよ!
……えええ?がら?がらって、なに?
ガラパゴスの略だよ!
が、ガラパゴス?わたしってガラパゴス、だったの?

……あたまのなかでガラパゴス諸島のトカゲの群れが
いろとりどりの二つ折り携帯電話を耳らしきところにあてて
無表情ながら内心かしましくおしゃべりしている絵が浮かんだ。
はなれている島でもしゃべれるの便利だな、みたいな…。

そんな、二台め携帯電話。
2010年から使ってる、見なれた機械。
よのなかの流れははやくって
Yahoo!とかツイッターとか乗り換え案内とかそういったもの、が
どんどん使えなくなってしまった。
繋がれるのは、ここエンピツとmixiモバイルくらい。

電車に乗ろうとしても知らない街で地図を探そうとしても
時刻表がない。案内がすくない。みんなうすい四角をみてる。
道を聞いたらGoogleマップ。

そうして大事なメールでメモリがいっぱいに、なった。

2010年から。

沖縄にいった。
地震があった。
夫たるひとが倒れた。
ICUに通い手術にたちあった。
祖母を看取った。
すきだった部屋とわかれた。
東京に移った。
祖父とさいごのお別れをできなかった。
ねこがやってきた。
いちばんのともだちがつぎつぎ引っ越してゆき
今もうほとんど会えなくてしゃべれない。

……そんなことがあった毎日がぽつぽつとメールになり
走り回ったり動揺したり泣かなかったり倒れたりでも
笑ったり笑ったりしていたわたし、が小さな機械のなかにつまっている。

それを消したくなくてただの電話となってもだましだまし使ってきたけれど
さすがに、通院をいくつか再開することにして
じぶんにもう少し小さなたのしみや笑うことのチャンスをふやそうときめて
そうすると、どうしても周囲が居場所を把握したがるし
実際に、なにかとおぼつかないので

二回目の機種変更、というときを
できるだけあかるい気持ちで乗りこえようと
ちいさく準備をしている、あかるすぎるフロアのかたすみです。

最近の携帯電話さんはみんなスマートフォンで
きらきらぴかぴかしていて
来ている人たちもとても詳しくて
真剣にいろいろ比べては、未来にできることにわくわくしているね。

だいじな5年分がてもとに残せたらそれでいいなと
わたしはたのしいふりで、たぶんそればかりおもっている。
うしろむきかな。
どうかな。


とある携帯電話会社の相談待ちにて
真火



2015年10月12日(月) ヨーグルトの日々。


この足で歩いていく。
うながされて歩き出す。
道順をさっぱり把握できないまま風船みたいに浮かぶあたまを連れて
茶色とくすんだグリーンのキャンバス地のショートブーツ、
はじめは別の色だったのに
すきだから、と買い直した少しくるっていた私の去年の名残だ。

そうしてお蔵入りしたたくさんの靴を服をはやく
手元からほうりだすように
しらない海に向かって、白く焼けたカルシウムの殻をひとつひとつ
おさまるところにおさまれと祈りながら投げる

そんな儀式を
したい
埋もれたきのうから
身を剥がして
勢いに任せて破って

どれだけみがるになったら
この亡霊はいないことになってくれるだろう
ふと立ち止まってまわりを見たらくるんでいるビニルの壁
溶けたくらげ。
手ごたえのないがらす。
ホルマリンの濃すぎるゼリー。

とうめいな水晶のなかで標本になっていくにはあたしは
あんまり、饒舌で、
きれいでも貴重でもなかった。

…………………………

雨が降る日
枯れていく桜の木によじのぼって透明な傘をかかげて
まっしぐらな笑顔で飛び降りたい

雨粒を吸った下生えがすこしは
栄養にしてくれはしないか
レタスをちぎった指も
無造作すぎた腕も

存在意味をもちたいと思っていた。
消えることがいちばんの選択だったら

……みんながわすれたころ、あの律儀な訪問者はドアの外に立つ。
笑顔をうかべて。



神無月、休日のおわり
真火




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