カエルと、ナマコと、水銀と
n.446



 張りつめたモノが、またしぼむ

=張りつめたモノが、またしぼむ=

抱きしめて押し倒したまではいいんだけど、本当に頭が真っ白になってしまい、今まで頭に描いてたことがなくなり、それから先何をしていいか分からなくなって、俺はその体のぬくもりを感じながら、時間が止まったような感覚に酔いながら、別に何をしてもしなくても、俺は奈津が好きだし、奈津も俺のことが好きなのだったら、それだけでいいんじゃないかな、って考えることが出来る余裕が脳みその中に出来ていた。

=暗闇の真っ直中=

俺は結局のところ何を望んでいたのかというと、その女の子の友達に同情して欲しかったのだ。俺にはそれ以外の救いは見えていなかったし、いささか混乱と、疲労の真っ直中にいた。


2002年07月31日(水)



 上昇気流

=上昇気流=

山肌を駆け上る上昇気流に飛ばされて、トンビと同じくらい高いところまでやっていたら、何もかもが小さくなって、下の方で口を開けたままこっちを観てる友達も、あの海に浮かぶ小さな船も、何もかもが小さくなって、自分の悩みなんて消えてしまった。

=赤い張りつめた風船=

彼女が別れを告げたとき、頭の中で何かがかちかち鳴って、俺は夜の公園の混沌とした暗闇に投げ出され、闇に潜む未知の動物や、首筋を狙うコウモリの幻影に怖れ、その暗闇から抜け出そうという気力が抜け出てしまった。それはまるで張りつめた赤い風船が萎んでしまったような感じ。

=包装紙の中の犬=
もっとも僕は、映画のように「君にプレゼントだよ」「それは何?」「君が欲しがってたものさ」といって、その犬を渡したわけではないわけで、当たり前だけど、彼女とその家族に犬が飼えることを確認し、クリスマスの盛り上がりを見せるデパートにどの子犬がいいか見に行ったのだ。

2002年07月30日(火)



 震えるナイフ

=震えるナイフ=

雨が降って、雨が止んで。本当にすごい遠くの方で、銀色に輝くナイフが落とされた。その振動は、薄く地面に伸びている水を伝って、ここまで届いているのだ。そしてそれは、限りなく遠くの方で存在しているのだ。

=ネジに、歯車=

晴れてても雨が降っても、砂嵐でも、僕は砂漠の真ん中に立っているけど、君はすでに僕のことなんか忘れているだろうから、水たまりに足を突っ込んでしまったときや、雷が北北西の方向に落ちたときくらいは、本当に些細で良いから、雀の涙ほどでも僕のことを思い出して欲しいんだ。
機械。油差し。ネジに、歯車。あと、君。

=かナしミ=

深く、あまりにも深い悲しみだ。夜中の海へと潜っていって、珊瑚や岩礁やらを避けつつも、何かを求めて沖に向かっている。何かがそこでぷっつりと終わってきそうなんだけど、真っ黒で、真っ黒な海は未だそこにあるため、逃げることは出来ない。

2002年07月29日(月)



 ひらがな

=ひしがた=

一歩目を踏み出して、それを一歩目だと意識したとき、それ以前の一歩は完全消去されるわけで、歩き続けるべき運命の、ヒトである俺にとって、この一歩は一体何を示唆してるんだい?

=まんげつ=

真っ黒の夜の高い位置に据えられた満月に手を伸ばす。届くはずもないのに、その満月を追っかけて、その逃げる満月を追っかけて、走っていく。ムーンウォークのように前進のない道化。

=いぬ=

犬を埋めていくと、彼女までもが届かない幻影となっていくようで、僕は奥歯がぶつかって白い線香花火のような火花を散らしているのに気付いていた。例えばここでぺしゃんこになってしまった犬が膨らんで、もし吠えながら、しっぽを嬉しそうに振りながら僕にじゃれてきたのならば、君はをもう一度僕の手で抱きしめることが出来るのだろうか。



=お久しぶりです=

今から書こうと思ってる作品の元となる部分です。書き上がるのか分からないけど、とりあえず「浮遊隕石」も書き上げられたので大丈夫。。。

2002年07月27日(土)
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