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『Presents』 角田光代 (双葉社) - 2006年09月21日(木)


角田 光代, 松尾 たいこ / 双葉社
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<角田さんから読者への最高の贈り物>

近年、直木賞を受賞後、より一層の飛躍を遂げている作家の代表例として角田さんを挙げたいと思っている。

元来、直木賞というのは作家にとっての最高の目標であるとは思うのであるが、決して到達点ではないはずの賞であると認識している。
さらなる飛躍と言う期待を込めて送られる通過点的な賞だと理解しているつもりだ。

たとえ人気作家の絶賛されている作品であれ、中には否定的というか辛口の感想や読後感を持たれている人がいても決して驚かない私であるが、もし本作品集を読まれてつまらないとかくだらないという感想を持たれた方がいれば、その方は読書をして少なくとも心を豊かにしたいという向上心に欠けている方だと思いたいのである。
それほど本作に収められている物語は宝物のように貴重な財産となるはずである。

角田作品、まだ半分も読んでいない私であるが、初めて読まれる方には是非この作品集をオススメしたい。
涙を流して読まれたあなたは角田さんから感動と言う大きなプレゼントを受け取り幸せをかみしめることとなるであろう。

本作は松尾たいこさんとのコラボ作品で小説推理に連載されていたもの。
12のストーリーにそれぞれ各1ページ、松尾さんのイラストが効果的に挿入されている。
単行本化に際し、素晴らしい表紙がついたことは特筆物である。

プレゼントと言えば、普通は物を想像する方が大半であろう。

しかしながら、本作では冒頭の“名前”からラストの“涙”まで、物だけでなく様々なテーマが取り上げられている。

角田さんが描くそれぞれのシーンはある読者にとっては既に通過したものであろう。
逆にこれからそれにぶち当たって行かなければならない読者もいるであろう。
ただ、どの読者にとっても愛情に満ち溢れたそれぞれの“ものがたり”を通して次のように思うはずである。
“人生って辛いことがあるから楽しいんだ”と。
読後、少し人生に潤いを感じるようになった気がするのである。

それほど、本作を読まれた読者は自分の人生の過去・現在・未来を考えることを余儀なくされる。
ランドセルを買ってもらった思い出。昔の恋人との思い出。また亡くなった母親のことを思い出すのもいい。
自分の子供の書いた絵を取り出すのもいい。浮気をしている方は良心を痛めるのもいい。
離婚を考えている人は子供のことを思うのもいい。

そう、本作は私達の人生に奇蹟を起こすかもしれないのだ。
自分の過去にもらった贈り物の重さを十分に噛み締めれたからだ。

“ラストの77歳のお婆さんに負けないくらいに人生のゴール地点では涙を流したい”。
そう思ってくれる女性には是非本作をプレゼントしたいなと、ひとりの男性読者として感じた次第である。

超オススメ(10)

この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2006年9月30日迄)



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『ガール』 奥田英朗 (講談社) - 2006年09月17日(日)


奥田 英朗 / 講談社(2006/01/21)
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<思わず“新・短編の名手”と言う言葉を授けたくなるぐらい読者を溌剌とした気分にさせてくれる短編集>

30代の働く女性を主人公に据えた短編集。
同じ講談社から2002年に発売された40代の男性管理職を主人公とした短編集『マドンナ』の姉妹本と言えそうな本作。
両方読まれた方は賛同していただけると確信しているが、本作の方が“輝いている女性”を描いているために読後感がさらに良いのである。

本作の特徴は女性の微妙な心理を男性作家ならではの鋭い観察眼で読者に思う存分披露してくれている点。
既婚・未婚問わずに働く女性の方には是非読んでいただきたいなと思う。
必ず相手方(既婚の方は未婚の方の、また未婚の方は既婚の方の)の気持ちが十分に理解でき、なおかつ尊重できるのである。
なぜなら人生の価値観は人によって様々で然りであるからだ。

各編、読後読者それぞれが元気をもらいそれぞれの幸せへと一歩踏み出したような気にさせられる。
奥田さん、伊達に直木賞取っていないなと思わずにいられない。女性作家のように毒づいたところは少なく幻想的な部分は皆無といってよいが、女性作家顔負けの微妙な心理を的確に描写している点は見事のひと言に尽きる。

本作の5編は2003〜2005年までの間に小説現代にて掲載された。
くしくも直木賞を受賞した『空中ブランコ』と同時期に書かれていたのである。
もし本作で直木賞を受賞していても何の依存もないと思うのはわたしだけではないであろう。
なぜなら、どの主人公も伊良部先生ほどユニークではないが、伊良部先生よりリアルで読者の胸の内に迫ってくるからだ。

少なくとも男性読者の私が読んだ結果として、働く女性に対する気配りがほんのわずかかもしれませんが以前より出来るような気になりました。
奥田さんの願いが少しは届いたのかもしれませんね(笑)

直前に読んだ山本幸久さんの同年代女性を描いた短編集『男は敵、女はもっと敵』との出来栄えに雲泥の差があったために余計に感じるのかもしれないが、本作は全5編とも秀逸な出来なのであると断言したい。
たとえば冒頭の「ヒロくん」。主人公の女課長聖子の旦那の名前なのであるが、彼は妻を十分に理解して働きやすい環境作りを念頭に置いて生きている。
そう、陰で支えているのだ。
「男が怒ればカミナリを落とした、女が怒ればヒステリー、
これも、ずいぶんな話だ」


厳しい現実をエンターテイメント性十分に交えて人生の岐路に立った素敵な5人の女性を描いた本作。
明日、会社に行けば似た主人公が身近にいることに気づくかもしれません。
あなたも是非手に取って賛同して頷き、そしてエネルギーを補給してほしいなと思ったりするのである。

人生も読書も楽しいほうがいいですよね!

オススメ(9)




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『男は敵、女はもっと敵』 山本幸久 (マガジンハウス) - 2006年09月08日(金)


山本 幸久 / マガジンハウス(2006/02/23)
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<作者にとっては新境地開拓の作品なのであろうが・・・>

マガジンハウスの月刊文芸雑誌“ウフ”に連載していたものをベースに単行本化した連作短編集。
正直言って、傑作と言って良いであろう『凸凹デイズ』を読んだあとすぐに手にしたので読み終えるのが辛かったのは事実。

こういった少し男女間のドロドロな部分をコメディタッチ兼ユーモラスに書けるのは吉田修一さんか平安寿子さんに任せておいたほうがよかったかもしれないなと思う。
山本さんが描くと吉田さんほどサラッとお洒落に書けないし、平さんほど毒がない。
平凡な作品に終始してしまう。
他作と比べるとどうしても全体的なまとまりにも欠け、読後感もすっきりしないのである。

物語は36歳でフリーの映画宣伝ウーマンである高坂藍子が主人公。
藍子は美人ながら離婚して半年で、現在オトコはいない。
彼女を中心にいわば彼女の影響で人生を翻弄される男たちと、さらにその男たちの妻や恋人たちの実態を描いている。

出版社のイメージからして私が想像するに、作者は藍子をカッコいい女性として描きたかったのであろうが、少し不完全燃焼のような気がする。
私はどうしても藍子自身に不幸感を見出さずにいられなかったのである。
少し否定的に書いたが、キラリと光る部分もある。
終盤に不倫相手だった西村の息子の良太が藍子に会いに来るシーン。
これはちょっとドキドキそしてかなりジーンと来ましたね。
西村のだらしなさを少し嘆きつつも、良太君にエールを贈らずにはいられなかったのである。

ここからは少し飛躍した意見かもしれませんがご容赦を・・・
タイトルの『男は敵、女はもっと敵』を私は『男の敵、女のもっと敵』と読み替えています(笑)
そう、主人公藍子のことですね。
意外と上手くまとまるような気がしませんか?

少し手厳しい感想となりましたが、これは山本さんへの大きな期待の表れであるとご理解願いたいですね。

期待はずれ(5)

この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2006年9月15日迄)




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『凸凹デイズ』 山本幸久 (文藝春秋) - 2006年09月07日(木)


山本 幸久 / 文藝春秋(2005/10/25)
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コミカルな会話が楽しい
一生懸命ってちょっとカッコいいじゃん、と思える1冊


<自分自身の輝ける居場所探しに恰好の1冊>

個人的な意見であるが、これから次世代の直木賞を狙える男性作家として本作の山本幸久さんと三羽省吾さんのお二人を注目している。
お2人とも今後のエンタメ小説界を背負って立つに相応しい逸材だと信じて疑わない。
本作は山本さんのいいところがギュッと詰まった傑作だと言えそうだ。

作者のいいところは次の2点あたりがあげれるだろう。
まず作風がとってもハートウォーミングな点。
次に登場人物が皆個性的でキャラが立っている点。

本作は上記2点が巧みにミックスされ、“山本ワールド”を見事に構築させた作品である。

凹組はとある小さなデザイン会社。
どんな小さな仕事も引き受けている。
過去(10年前)も今も男性2人と女性1人で運営している。

名前の由来がユーモラスで面白いのであるが、男性は努力型の大滝と天才肌の黒川。この2人は不動のメンバー。
女性は変動していて過去は現在ライバル会社QQQを経営している醐宮、現在は物語の語り手をも担っている凪海(なみ)。

物語は現在をデビゾーとオニノスケの作者でもある凪海が語るパートと、凹組結成のいきさつが語られる過去のパートとが交互に描かれている。

この作品を読んでもっとも巧いなと感心したのは、作者の醐宮というキャラの描き方である。
初期の凹組の中では紅一点ながら一番の野心家で、事務所を飛び出して独立したいきさつがある。
取りようによったら裏切り者的な要素も合わせ持つ彼女であるが、実はそういう側面的な思考は排除しなくてはならない。
とにかく山本さんが描くと憎めないのである。

結果としてだが、彼女は凹組の男性2人では到底掴めない才能を得るために一旦離れたのである。
そして取りようによっては憐れではあるが、大きく成長した姿で戻ってきたのである。

凪海が醐宮の会社QQQに出向して、彼女に近づいていろんな点を学んで成長していく姿が印象的だ。
そこで終始見極めれ、醐宮の凹組復帰を推薦した凪海、物語を通して一番成長したのはきっと彼女なのであろう。

デビゾーとオニノスケと再結成した凹組4人。
凹組の将来は明るい。

私もお裾分けしてもらった気分で本を閉じることができた。
人によって友情でもよい、信頼でもいい、あるいは仕事のやりがいでもいい。
そう、本作は何か確かなものをつかみ取れる小説なのである。

オススメ(9)



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『チェケラッチョ!!』 秦建日子 (講談社) - 2006年09月06日(水)


秦 建日子 / 講談社(2006/02)
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<スラスラと読める青春ど真ん中小説。ビバ青春!ビバ読書!>

作者の秦さん(男性なんですね)はシナリオライターとしても活躍中。
篠原涼子が主演したドラマ『アンフェア』の脚本・原作者(小説名は『推理小説』)としても名前をご存知な方が多いんじゃないだろうか。

とにかくスラスラと読め、胸は熱く焦がされつつも清涼感溢れる爽やかな小説となっている。
ちなみに同名の映画の方は本年4月にロードショー公開された。
原作とは違って透(市川隼人)が主人公らしい。
DVD発売が待ち遠しい。

本作の舞台は沖縄。
主人公は女子高生の唯(映画では井上真央が演じている)
密かに幼馴染の透に想いを寄せる姿が意地らしくて可愛い。
タイトル名のの『チェケラッチョ!!』はラッパーが愛用する「Check it out!」というフレーズをもじった合い言葉である。

あと、唯の姉で父親の反対を押し切って外人と結婚しているミナ姉、彼女が可愛いんだな。
ハチャメチャな性格キャラで登場するんだけど、後半に彼女の恋愛感が披露されて180度イメージが変わって素晴らしい。

もちろん、透たち3人組がワーカ・ホリックに感動してヒップホップに熱中するところもいかしてるんだけど、一番の読ませどころは唯が自分の気持ちに素直になる過程。
これは男性作家であるにもかかわらず、見事に乙女心を描写している。
秦さんの真骨頂だと言えそうですね。

少し予定調和すぎる部分もあるかもしれないけど、沖縄の灼熱の青い空にも負けない熱い若者たちの情熱が伝わってきた。
テンポの良い会話がより爽快な読書をもたらしてくれたことも付け加えておきたい。
とにかく、“青春”っていいですね。
まあまあ(7)

この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2006年9月15日迄)



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『沖で待つ』 絲山秋子 (文藝春秋) - 2006年09月05日(火)


絲山 秋子 / 文藝春秋(2006/02/23)
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<表題作の芥川賞受賞作品と芥川賞候補作品との2作品を収めた贅沢な短編集>

絲山さんの私のもっているイメージは“センスの良い”作家。
本作品集でもセンスの良さを遺憾なく発揮している。

まずは「勤労感謝の日」
男性読者としては、共感はしないがグサリと読者の心の中をえぐってくる作品。
生々しい表現が目につき、想像するにまるで素人のブログの記事いや女性週刊誌を読んでいるような気分にも陥る。

でも本当の絲山さんの特徴(良い悪いは別として)が出てるのは表題作よりこちらのほうではないだろうか。
この作品の評価なんかは合うか合わないかなんで、声高に叫びたくないのであるが、私的にはどうもすっきりしなかったのである。
やはり主人公のあまりの厭世的な姿勢とそれとは対照的な見合い相手の滑稽な姿。
タイトルも皮肉っていて面白い。
失業中の36歳の主人公の独身女性恭子が、勤労感謝の日に一流企業に勤める“ダサ男”と見合いするのである。
なんとその男の趣味は“仕事”
私的には作者の最も揶揄しているところがこの言葉であると感じ取った。
女性読者が読まれたら共感する部分が大きいのであろう。
いくら一流企業でもこんな男とは絶対結婚したくないという思いを誰もが抱くのである。


次に「沖で待つ」
こちらは紛れもなく“心に響く物語”である。
住宅設備機器メーカーに女性総合職として入社した主人公の女性と、同期入社の太っちゃんとの熱き友情と働くことの意義を問いかけた作品。

少なくともバブル絶頂期を体感したことのある方が読まれたら、リアルに感じ受け入れれるはずだ。

登場人物にも他作に感じられる投げやりなムードも感じられずに自然と自分自身を投影できる。
自然と過去のことを思い出さずにいられなくなり、思わず俺って年をとったなあと感じた読者も多いはず。

作者の略歴を拝見して、この作品は作者自身も思い入れの強い作品であると容易に想像できるのである。
今後、芥川賞を目指す作家にとってのお手本となる作品と言っても過言ではないような気がする。
なぜなら、この作品には“強い主張”が感じ取れるからである。
それは“働くことの尊さと人間関係の大切さ”であると私は理解している。

誰もが持ち合わせている不安感を和らげてくれる効果覿面な作品である。

面白い(8)

この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2006年9月15日迄)


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