トラキチの新着レビュー...トラキチ

 

 

『LAST』 石田衣良 講談社 - 2003年09月30日(火)

本作は直木賞受賞第一作として上梓された“人生の崖っぷちにたたされた人”を描いた短篇集である。
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石田さんの魅力ってなんだろう?
私は“読者との距離感の近さ”“斬新な題材”だと思ってます。
あと“テンポの良い会話”もあるかな?

本作品集は上記の魅力が十分に生かされてないような気がする。
それぞれかなり追い込まれた人が出てくるが、やはり不況の時代を反映した作品となってるのが少し残念ですね。
読者は借金まみれで追い込まれてる人が主人公の話を石田さんに期待してるだろうか?
多少泥臭さがあってももうちょっとカッコよく生きてる人を書いて欲しいなあって思われる方も多いと思います。
特に女性読者の感想を聞いてみたいような気がしますね(笑)

短篇集としてのテーマとして中途半端な印象は否めないし連作短篇集として出したのがマイナスのような気がする。

確かに巧く書けてる作品もある。
たとえば「ラストジョブ」「ラストコール」「ラストバトル」
なかなか共感も出来るしアイデアも卓越している。
やはり良い作品は感動的であるか、あるいは前向きな終り方をしている。
でも7編中、半分位は本当に平凡な作品のような気がしてならない。
ファンの方には申し訳ないのですが、私は本作を石田さんが直木賞を受賞されたので買いました。
でもこの程度の作品集で“直木賞作家”と呼べるのなら、何回も落選してる方には申し訳ないような気もするんですね。
実際、直木賞受賞ってセールスにかなり影響されると思います。
クオリティの高い作品を期待されるだけに石田さんもこれからが本当の“正念場”と言えそうですね。
石田さんは帯で“ぼくの別な顔に、震えてください。”って書かれてますが、私はいささか“ガッカリした”のが本音です。

きっと読む順序を間違えたのかもしれません。『4TEEN』(まだ未読)を読んだあとに読むべき作品だったような気がしますが続けて読んでみますね。

評価6点。



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『被告A』 折原一 ハヤカワ書房 - 2003年09月29日(月)

折原さんの作品は初めて読破した。
まず第一印象として会話文がテンポよく文章的に読みやすい作家だと思う。
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作品の内容としては、あんまりこの手の作品は内容に触れないほうがいいのかもしれませんね(笑)
ネタバレで語り合いたい気も強いのですが・・・

展開的には2つの関連した話が息をもつかせぬぐらいの緊張感を持って展開して行き、読者もグイグイ引きこまれて行きます。
しかし、問題のラストの結末は得意の“叙述トリック”なんでしょうが、確かに読者にとっては凄い結末として待ち受けてるのかもしれませんが、途中の緊張感からして読者はもっと期待してたのかもしれませんね(少なくとも私はそうでした。)

ちょっと文章では表現しにくいのだけど、どこでどう繋がるのだろうかという期待感が唐突と言うかあっけないというか、多分私がこの手の作品をあまり読みなれてないからかもしれませんが・・・
ある意味において、こういう結末だとかなり伏線を張って読まれてもどうしようもない作品なのかもしれませんね。
でも少なくともまんまと騙されたのは紛れもない事実です。
途中まで“被害者の会”のメンバーの誰かが真犯人だと信じてましたから(笑)

あと構成的には法廷シーンや主人公被告Aの心理の動きが巧みに描かれていて、かなり筆力が高い作家だとは思いました。
親が子供を思う気持ちがこの作品をかなり盛り上げてますね。

本作は400ページ弱の普通の長さの作品であるが、この方に限って言えばもう少し長めの作品の方がもっと緻密かつ丹念に書けて持ち味が発揮できそうな気もします。

本当のこの作品の評価は他の折原さんの作品を読んで比べてみる必要がありそうです。
たくさん読まれてる方の評価は是非聞きたいと思います。
ちょっと“勉強不足”を痛感しましたね。

評価7点


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『ひまわりの祝祭』 藤原伊織 講談社文庫 - 2003年09月28日(日)

感想は後日書きます。

評価7点。


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『ハードボイルド・エッグ』 荻原浩 双葉文庫 - 2003年09月27日(土)

感想は後日書きます。

評価8点。


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『たそがれ清兵衛』 藤沢周平 新潮文庫 - 2003年09月26日(金)

感想は後日書きます。

評価8点。


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『リアルワールド』 桐野夏生 集英社 - 2003年09月25日(木)

桐野さんの作品を久し振りに読んだがとても洞察力の鋭い方だと強く感じた。
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代表作である『OUT』の高校生版といってもいい感じの作品であるが、破滅的なストーリー展開の中にも巧みに“現代社会の問題点”を盛り込んでるあたりは見事と言うほかない。

それぞれ(ミミズと女子高生4名の計5名)が一人称で章ごとの主役を担っていて読みやすいし展開も目が離せない。
多少、ミミズ(男)に翻弄されてて納得行かない点もあるが、4人の女子高生のそれぞれの性格分類が非常に明確にされていて物語自体をすごく活性化してるような気がした。

特に、テラウチの小学校時代(私立小学校)からのエピソードや母のことなんかは都会に住む読者にとって人ごととは言えないのではなかろうか?

もっともしたたかっぽく見える(したたかというかしっかりしたと言ったほうがいいのかもしれない)人物が、残念ながら実はもっとも繊細だったのが皮肉かつショッキングだった。
でもちょっとした好奇心(ゲーム)が大変なこと(リアルワールド)を引き起こすって注意しなければなりませんね。

あと、4人の女友達同士がお互いをどう思ってるかという描写シーンも読みどころのひとつでした。
それぞれの繊細かつ揺れる心の動きがとっても印象的です。

ただ、ちょっと男性のミミズに関する描写がどうしても弱いと言うか物足りなさを感じたのも事実です。
女性のそれぞれの心理はわかるのだが、ミミズはどうしても異常としかいいようがないのではなかろうか・・・
やはり人の命を軽薄に扱ってるように感じられたのがマイナス点でしょう。

本作はひとつの教訓小説として捉えたい作品である。
深読みしたら辛く悲しすぎるからだ。
どうか“氷山の一角”であって欲しいと思う気持ちが強く本を閉じました。
でも、年頃の娘さんをお持ちの読者の方って人ごととはいえない作品でしょうね(笑)

評価7点


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『黒く塗れ 髪結い伊三次捕物余話』 宇江佐真理 文藝春秋 - 2003年09月22日(月)

『さんだらぼっち』に続く待望の髪結いシリーズの第5弾です。
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まず読後の総括から始めたい。
今までのようにじれったい恋を楽しむ事は出来なくなりましたが、本作では待望の子供が誕生して読者も本当に自分の家族がひとり増えたような気分になっちゃいます。
2人の結びつきがより強いものとなったことを素直に喜び、この先も波乱万丈な人生を歩むであろう2人の長男伊与太の幸せを願わずにいられない。

ただ、残念なのが1冊読むのがかなり前回読んだ時から記憶がなくなってる部分も多いので、ちょっと登場人物(主として脇役)に対する認識がわかりづらくなってる感じがしました。そこが改善できればもっと物語に入って行きやすくなるのでしょうが、現実的には1巻目から続けて再読する以外に方法はありませんね(笑)

今回はいつもよりも登場人物が多く(オールスターキャストと言って良さそうです)、今までのシリーズにおけるいきさつを理解していなくちゃわかりづらいと思います。

ここから少し内容に触れます。
全6編からなりますが今回は引越しはありません。最初から最後まで一緒に2人は住みます(笑)
最初の「蓮華往生」では不破の友人(?)の緑川とお文の知り合いの深川芸者の喜久壽が登場します。
本妻のいる緑川と喜久壽との関係はどうなるのでしょうか?ちょっとミステリー仕立ての作品となってます。
お文伊三次の会話も面白いですが不破夫婦の会話も本シリーズの売り物なんでしょうね(笑)
本編にて無事に伊三次より先立って2人目の子供(茜)が生まれます。めでたしめでたし。

次の「畏れ入谷の」では出産を控えてるにもかかわらずお座敷でお文が大活躍します。
お文の言葉で改心する武士の人情話にホロリとさせられます。
あと、不破の長男の龍之介の純真無垢な気質も前作に引き続いて印象に残りました。

3編目の「夢おぼろ」にも龍之介が登場します。彼の剣術の先生である美雨に想いを寄せる監物の切ない恋を描いています。
富札を当ててプレゼントを贈るのですが、果たして上手くゆくのでしょうか?

次の「月に霞はどでごんす」ではいよいよ出産間近となるお文ですが、なんと逆子であることが判明し予定日を過ぎてしまいます。
喜久壽がふたたび登場して緑川の紹介によって医者に見てもらったのですが、逆子であることをお上の御用で忙しい伊三次には伏せられています。

報酬を得て人を殺していた笑助を嵌める喜久壽と緑川の見事なコンビネーションも見ものですが、なんといっても2人の間に子供が無事に誕生したことは読者も本当に自分の家族がひとり増えたような気分にさせられます。

結構リアルに出産シーンを描写してるのには驚きましたが、不破の伊三次に対して発した言葉がとっても不破らしい(というか宇江佐さんらしい)のでちょっと引用しますね。

「早く帰ってやんな。女房が待ってるぜ。十月十日も腹に抱えて、そいで身体ァ、引き裂かれる思いで餓鬼をひり出すのよ。てェした苦労だ。それに比べ、お前ェの苦労はちょんの間だったろうが」

ちなみに長男伊与太(いよた)の名付け親は不破です。

続く「黒く塗れ」では髪結いの得意である箸屋の翁屋八兵衛の悩み(本妻に関して)をお父さんとなった伊三次が解決します。
一編目の「蓮華往生」とともにミステリー度が高い作品となっているが、以前お文の女中をしていたおこなの元気な姿が見れます。

そして最後の「慈雨」であるが長男出産の「月に霞はどでごんす」に勝るとも劣らずの感動話となっている。
一言で言えば人情話であるが、髪結いシリーズファンにとっては懐かしい直次郎お佐和が満を持して登場します。
以前の話のいきさつから気に掛かっていた読者も多かったのではないでしょうか。
宇江佐さんからの大きなプレゼントと言えそうです(笑)

お互い過去のことを水に流し一緒になる2人に声援を送りつつ、伊三次の心の葛藤とお文のアドバイスを素直に受け入れたことが本作全体を爽やかなものとしている。


紆余曲折があっても一作一作徐々に幸せを体感できることが本シリーズの魅力であることは言うまでもないことであるが、宇江佐さんの短い文章にピッタシ集約されている言葉を発見したのでその言葉を引用して感想を終えたいと思う。

親子が川の字になって眠るのは庶民のささやかな倖せである。

評価9点。オススメ


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『殺人の門』 東野圭吾 角川書店 - 2003年09月18日(木)

2段組で440ページ余りあり期待して読みました。
裕福な家に生まれた田島和幸の翻弄される人生を描いている。
途中、何度も何度も殺意を抱くのだが・・・

内容的は同じ失敗の繰り返しばかりで“間延び感”が否めなかった気がする。
ちょっと雑誌連載の弊害が出てるのかもしれませんね。

東野さんの“人間の奥底に潜む悪意を描く巧さ”は定評があるが、本作は『手紙』のように受身的なものじゃなく、主人公さえしっかりしてたら苦しまなくてよかったのにという気持ちが読者側にも強く持てるためにかなり感動度が落ちるような気がする。

個人的には、東野作品の魅力って“誰よりも読みやすい文章”“卓越した物語作りの上手さ”だと思ってます。
読者も他の作家よりもずっと物語に読者を没頭させてくれる期待感を持って読まれる場合が多いと思う。

そのために主人公に対する共感が思い入れするに対して必要不可欠なものだと思えるのだが、本作に関しては“同情を通り越して情けない気分にさせられ”た感は否めない(苦笑)

われわれファンが東野さんに期待しているものはもっと大きい。

私は主人公を不幸だとは思いませんでした。彼は“優柔不断な人間の代名詞”のような気がする。
男の人生って自分でもっと切り開いて行けるんじゃないだろうかと思うことしきり・・・

逆にいい点も述べますね(笑)
まず、ラストの倉持の動機を語るところは東野さんのいちばん得意とする部分だと思う。
人間の複雑な心理を巧く短く描写してますね。
あと、さりげない文章で悪徳商法なんかを読者の前に提供してくれる点は個人的に面白かったと思う。
陰の主人公である倉持修の心の動きが謎めいているようで良くわかるように書かれている点もさすがだと思う。
倉持を主人公とした方が割り切って読めて面白かったかもしれませんね。

正直、重松さんの『疾走』のような衝撃作ともいいがたいと思います。
『疾走』は物語全体が重くて暗いが、本作は暗いのは主人公だけでしょう、きっと・・・

それでも本作の方がずっと読みやすい。
読んでて辛くなる本でもない。どちらかと言えばイライラする本かな。
ファンも複雑なのですが(笑)そんなに面白くないのにスイスイ読ませてくれるのも東野さんの筆力の高さなのかもしれませんね。

結論として、ちょっと人間のいやな部分(悪意)を読みすぎた気がします(笑)
『白夜行』と似た感じの作品であるが、『白夜行』の素晴らしさを際立たせる結果となった作品のような気がする。

大きな違いは主人公に共感出来るか否かがポイントでしょう。
私は主人公に最後まで共感できませんでした。

評価7点。


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コラム 『疾走』と『哀愁的東京』 - 2003年09月13日(土)

(9/10掲示板書き込み分)
私個人的には『疾走』より『哀愁的東京』の方がほろずっぱくて好きなのですが、重松さん自身は『疾走』の方に力を入れて書かれたと私も思ってます。

『哀愁的東京』はまだまだ余裕を持って書かれてると思います。

セールス的には
★話題性 ★出版社 ★刊行順序からして『疾走』の方が売れて当然かなあとは思いますが、初めて読まれた方がどう思われるのかいまだに心配しております。

まあ、若い方でしたらそんなに違和感ないのかもしれませんね。

(9/12掲示板書き込み分)
おそらく『疾走』は若い方が読まれたらそんなに違和感なく読めると思います。
それだけ世の中が変わったということでしょうかね。
あと、私たちも“私たちが好きな重松さん”という固定観念を持ちすぎてるのでしょうね。

ターゲットを意識したと言うのは間違いないと思います。
おそらく“オール読物”や“小説新潮”では掲載しなかったと思います。
ちなみに“KADOKAWAミステリ”は廃刊となりました。
重松さんの心の中にも“斬新な小説を”という気持ちがあったのだと思います。

辛いなりにも多少は“子供の心の痛み”をわかってあげたいなあって思ったりもします。
ちょっと読後日が過ぎれば感じ方にも柔軟性が出てきたみたいです。少しだけですがね(笑)


ここからは『疾走』『哀愁的東京』について今の私なりの考えを記させていただきます。
是非お読みください。

従来の読者層からしたら『哀愁的東京』の方が良かったという方が多いと思いますが、たとえば20才ぐらいの方が読まれたら『疾走』方が多いような気がします。
若い方は『哀愁的東京』の各編の内容を“懐かしい”と感じないでしょうしね。

でも数冊以上読まれてる重松ファンの方にはどちらが従来の重松テイストを醸し出してるかは一目瞭然で『哀愁的東京』だとわかるでしょう。
確かに従来の重松さんの作品のいくつかを足して割ったような作品だと思います。
個人的に少し甘い評価にした理由を述べますと、“センチメンタリズム”というか“ほろずっぱさ”がとっても心地よく伝わってきたからだと思います。
これは私が重松さんの作品に対して一番魅力を感じてる点です。

ちょっと私事を書かせていただきますと、かつて私も受験生でした。
重松さんと同じW大を目指して頑張りましたが、夢破れ(笑)、京都の大学に行きました。
ほとんど東京には行ったことがない人間ですが、もし東京の大学に行ってたらと言う事を考慮に入れて主人公に自身を“投影して”読み切ることが出来ました。
他の方より感動度が増した原因のひとつだと思ってます。

重松作品の魅力って性別・年代を問わずにいろんな感じ方が出来る事だと思ってます。
もっと突き詰めて言えば、どれだけその作品に“思い入れ出来るかでその方のその作品の評価が決ってくる”と言えるでしょう。

これは他のミステリー作家等では味わえないとっても貴重なものだと私自身強く思ってます。
どれが正しいか答えはありません。答えは読者が実生活で味わい感じ取るべきだと思ってます。

そう言った意味で新刊で出て何年後かにまた読み返して違った感じ方をするって言うのも重松作品の立派な楽しみ方だと思ってます。
世の中も変わりますし読者も変わりますので・・・

『疾走』今まで変化球勝負ばかりしていた重松さんが渾身のストレート勝負で出た作品かもしれません。
あるいはその逆かもしれません。
その結果は今後の重松さんの作品が答えを出してくれるでしょう。

野球に例えれば、読者もヘルメットが必要となってきたような気がします。
今までは、ヘルメットなしでバッターボックスに立っていたのでしょうね(笑)

いずれにしても(現時点で賛否両論あると思いますが)、重松さんの作風が広がったと達観したく思ったりしてます。
ファンにも心の余裕と柔軟性が必要かもしれませんね(笑)



関連リンク『疾走』感想
関連リンク『哀愁的東京』感想



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『Separation』 市川たくじ アルファポリス - 2003年09月12日(金)

本作を含めて短期間の間に市川さんの小説を3冊読んだ。
恋愛小説というジャンルを考慮すれば私にとって異例というか異変である(笑)
山本文緒以来になるだろう。

両方読まれた方ならお分かりだと思うが、山本文緒と市川拓司の小説は180度違ってくる。
前者が“リアルさ”を売り物としていて、後者は“ピュアさ”を売り物としている。
まさにピュアな恋愛小説に“酩酊”すると言った感じである。

3作品読んでちょっと総括的な話となりますが、市川さんってとっても繊細さが売り物だと思う。
繊細だけど計算しつくされてないので読者には受け入れやすいのでしょうね。

本作は2編とも悟と裕子が登場する。
設定は違うがそれぞれ切ない話となっているが、執筆された順から考慮して後編の「VOICE」から先に読んだ方がベターかもしれません。

表題作の「Separation −きみが還る場所」は平凡に暮らしていた夫婦の妻の方がある日突然身体が若返って行く変化を描いた作品である。
バードマン牧師の話が物語のキーポイントとなっているが、基本的には愛し愛されることの素晴らしさを読者に再認識させてくれるストーリーである。

後編の「VOICE」は逆にうまく結び合えなかった2人がとっても印象的な作品となっていて、印象度はこちらの方が高いかもしれません。(好き好きでしょうが・・・)
こちらは“恋愛は結果じゃなくって過程なんだよ”と教えてくれる秀作であるが読み手によってはもどかしく感じるかもしれません。

どちらも同じ名前の登場人物を起用してSF的要素のある作品である。
同じように切ないが話の内容は全く別物である。
2つの甲乙つけがたい作品を書く筆力は凄いのひと言に尽きる。
恋愛中の方には表題作の方がいいかもしれないが、そうでない方は後編の方がいいかもしれません。
昔の恋人などの楽しくて切ない記憶を呼び起こしてくれる作品だと確信しております。

市川さんの作品に男の本音や女の本音を求めても無理な話だ。
それは他の作家に任せたら良い。
彼に求めるのはそれぞれ(男女)のいい部分を最大限に描写してもらいたい。

市川さんの読者ってそれを十分に堪能して“なおかつ余韻を楽しもうとする贅沢な読者”なんだと確信した。

評価8点


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『武家用心集』 乙川優三郎 集英社 - 2003年09月09日(火)

時代小説はフロックでは売れない。
読み手のレベルが非常に高いからだ。
本作は1編1編丹念に書かれたクオリティの高い短篇集だ。
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従来、乙川さんは長編の方が上手いという固定観念があった。
しかしながら本作を読んで短編も上手いと言うかますます磨きがかかったという気がした。
デビュー作で代表作でもある『霧の橋』に肩を並べた作品と言えよう。
普段、“時代小説なんて・・・”と尻込みされてる方にも是非1編だけでも読んでいただけたらと思う超オススメ作品です。

全部で8編収録されている。どれを読んでもハズレはない。
思わずため息が出ることしきり。
一編一編詳しく書きたいが長くなりそうなので省略したく思う(笑)
未読の方にいかに本作が素晴らしいかを伝えるには、あらすじ等は特に短篇集の場合は必要ないと思う。

ちょっとどんな文章か引用したく思う。
『不思議ですね、こうしていると自分の心の中が見えてきますのに、肝心なときには何も見えません、そのとき一緒にいられないというだけで、すべてを失ってもかまわない気さえしたのです、じっと待つだけではいられない五年でしたし、一度崩れてしまうと一日たりとも辛抱のならない気持ちでした、まるで堪え性のない子供です』(「向椿山」より引用)

舞台は江戸時代なれど現代社会、とりわけサラリーマン社会に通じるものがある。
何故、こんなに人の気持ちを掘り下げて描けるのだろうかとつくづく感心してしまう。

どの編も人生の岐路に立った人々の苦しみや悲しみを描いている。
たとえば藩内抗争・介護問題・・・
読者は自分の人生に置き換えてあたかも自分がその主人公になったかのごとく没頭して読んでしまいます。

圧倒的な筆力に読み終えた後、“人生の素晴らしさ”並びに“読書の醍醐味”を実感できます。
よく文章はその人柄を表すと言いますが、乙川さんの静謐な文章もその誠実な人柄を表していると思う。
とりわけ暖かいまなざしを持って人と接することを勉強出来た気がするのは大きな収穫だ。

みなさんも是非“現役最高の時代小説作家”の名人芸を堪能してください。
乙川さんの作品を読んだあとに他の時代小説を読めばちょっと物足りないように感じるかもしれないはずです。

読み終えた後、明日からは少しは“器用に生きることが出来る”気がしていただけたら幸いに思います。本作は、読者にとって“心の故郷”となりえる作品であると信じております。

宝くじは買わなきゃ当たらないが、本作も読まなきゃ楽しめませんよ。

参考までに私の特に好きな編は「九月の瓜」と「向椿山」です。

評価10点。超オススメ作品


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『夏休み』 中村航 河出書房新社 - 2003年09月08日(月)

本作は『リレキショ』で文藝賞を受賞した中村さんの受賞後第一作で、芥川賞にもノミネートされました。

物語の内容としたら適度に癒されていい作品なのかもしれないが、ちょっとテレビゲームを普段しない方(私もそうなんですが)には馴染めない内容かもしれません。

妻の友人の夫の吉田君の家出を発端として、夫婦のあり方等を考えさせられますが、どう考えても別に離婚を考えなかってもよかったんじゃないかなあと思ったりして消化不良気味かな。
でも、あんまり深く考えずに読んだら心地よい作品かもしれませんね。

ママ(主人公の義母)の登場が作品全体を引き締めてるのは見逃せないが、読後感や感動度ともに前作(『リレキショ』)の方が良かったような気がする。

内容や言葉の使い方などからして“新しい時代の書き手”だなあと痛感。ゲーム感覚で読める若い方(特に新婚世代など)が読まれたら楽しめるかもしれませんね。

表紙が素晴らしいだけに内容がちょっと伴ってないような気がしたのは残念だった。

評価6点。


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コラム 重松さんと横山さん - 2003年09月02日(火)

9/1(掲示板書き込み分)
『疾走』に関する活発なご意見ありがとうございました。
本当にいろんな捉え方が出来る作品だと思います。
結構、重松さんにとっても上梓するのに勇気がいったことでしょう
その気持ちが“おまえ”という呼び方で顕著に現れてると思いました。

でも、従来のいわゆる“心地よい重松節”が欠けてたのは確かだと思います。
読者の“心の故郷”的な重松さんの作品とはかけ離れていたなあと思いました。

私の評価は敢えて低くしました。
心の中でかなり葛藤したのは事実です。
一番の原因は“自分の子供に読ませたいか?”という疑問が湧いたからです。
残念ながら私は読ませたいとは思いませんでした。

敢えて高得点にしてみなさんに読んでいただいて非難もされたくありません(笑)

でも10点をつけれる方が羨ましくも思いました。
私の受け入れられるキャパシティを超えていたのかと思ったりします。

本当は重松さんが一番全力投球した作品かも知れませんね。
その答えは今後の重松さんの作品が出してくれるでしょう。

でも今この時代に生きていて、重松さんの本を読めるという幸せ、並びに、みなさんとこの場(掲示板)で語り合えるという喜びは噛みしめてるつもりでいます。

9/2
今日は、重松さんと横山さんの2人を例にとってちょっと述べさせていただきますね。

どちらもジャンルは違いますが現役人気作家であるのはご存知の通りだと思います。
私の考えてる共通項は、2人とも現代小説の最先端を行ってると思うので単行本が出たらすぐに読むべきだと思う。(これから両氏の作品を読まれる方はその限りではありません)

でもそれぞれ理由は少し違ってきます。
まず、横山さんはまさに旬の作家と言えそうなんで次々と刊行されるものをまさに“リアルタイム”で読むことによって時代を共感できる感じがします。
ちょうど、恋人と恋愛映画を劇場で観るような感覚で・・・
ちょっと例を出せば村上春樹さんや吉本ばななさんがかつて一世を風靡したような感じと同じような気がします。
4〜5年経って横山さんが今と同じぐらい人気をキープできてるかどうか疑問ですし、時間が経てば面白みも半減すると思います。

重松さんの場合はまた違った感覚です。重松さんの小説は現代の時事問題等も含んだ要素が強く、その中に重松さんの考えを登場人物に反映させて書かれてると思いますが、極端な話1作1作変化していってるような気がします。
それが重松さんのインパクトなんでしょうね。
親友と居酒屋でお互いの人生について語り合うような感覚で・・・
実際、文庫化されるときに重松さん自身が“改稿したい”とかなり思われてると思います。
これは重松さん自身の変化だと思いますし、読者もそれを意識して読むべきというか楽しむべきだと思います。

ちょっとわかりにくいかもしれませんが、横山さんは“流行作家”で重松さんが“現代作家”と言ったらいいのかな?
活躍できるスパンとしたら重松さんの方が長く時代に対応出来ると思います。

もちろん、どちらも応援してるので1冊でも多くの方に新刊を買っていただけたらという気持ちも含んでることは事実です。

今回『疾走』では結果として評価が低くなりましたが、次はどんな作品が出るのかなという楽しみが今まで以上に加わったのも事実かもしれません。
ある意味、重松さんへの思い入れの表れだと思ってます。


ここからはちょっと出版界の事について語ります。

不況の世の中、読者側も本当に新刊ばっかり買ってられないというのも事実だし、文庫まで待てないので図書館で借りるというのもいい方法だと思います。
私もたまに借りてますし。

単行本の値段って本当に高いと思います。
他のものが値下げしてるのに本って安くなってないような気がしますよね。
文庫化や新書化が節操もなく早くなってる昨今、安心して買えません。

ひとつの意見ですが、以前、掲示板でも少し書いたのですが、やはり人気作家とそうでない方の単行本の値段に差をつけるべきだと思います(現実問題は簡単には行かないと思いますが・・・)
“図書館問題”もクローズアップされてますが、現実人気作家は例えば新刊は半年ぐらいたってから貸し出しするとかいう措置を取ってほしいと思ってると思います。
(これは“大極宮”でそういう要望をしている記事を見ました)
逆にあんまり売れてない方には全国の図書館に入るだけでもかなり初版の数が計算出来てるのが現実だと思ってます。
売れてない方は“図書館にかなり依存してるのが現状”であると思います。
そこにかなりの矛盾点があります。

読者側もたくさん読めば読むほど買ってたら出費がかさむというのも事実です。
一部のお金持ちや独身で小遣いが自由に使える方以外はすべて買ってたら死活問題(ちょっとオーバーな表現かな)ともなりかねません。

それと本って同じ作家であっても当たり外れがあるのは事実です。
新刊で買って面白くなかった時のショックは、中古で買ったり図書館や友達に借りた時の数倍ショックなのは事実です。

あと、プロの書評家でもないわれわれ読書を趣味としてる人間が、インターネットという不特定多数の方が見れる媒体に自由に意見や感想をまさにリアルタイムにアップ出来るというのは本当に平和な世の中です。
私の場合、そんなに辛口で評価はしません。

最終的には“合う合わない”ということに帰結すると思いますので、極端に酷評するというのはプロの書評家にまかせたいと思います(笑)。

本来、素人のわれわれが絶対評価(採点)するってこと自体が失礼極まりないのかもしれませんね(苦笑)
まあ、それはサイトの個性という事でご理解ください。




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