流れる水の中に...雨音

 

 

『秘密倶楽部』 - 2006年07月07日(金)

とあるハイソな社交倶楽部がある。
そこには 財界の重鎮たちが集い交流する為の倶楽部であるが、ある時その中のメンバーで、また小さな倶楽部を作った。それが『秘密倶楽部』である。
なにせ、その社交倶楽部のメンバーはいろんな方面に顔が効く。そんな「力」をもつ秘密倶楽部とは、秘密倶楽部のメンバーの願いを実現する為にメンバー同士が働きかけをして叶える為にある。

ある人は自分の経営する会社に不利益になる法案を否決されることを願った。すると政界に太いパイプをもつ者たちが多方面から強く働きかけ、否決にいたらしめた。彼の願いはかなったのである。

またある人は ドバイでの石油採掘権を欲した。自分の力ではどうしても手に入れる事ができなかったのだ。そして同じように秘密倶楽部にその願いを託し、もちろん、世界規模である秘密倶楽部が、その願いを受け働きかけ、彼は見事にその権利を手にする事ができた。
そんなふうに秘密倶楽部は密かに誰にも気付かれないところで手を回し、その手際は鮮やかだった。

私はある時 秘密倶楽部のメンバーである彼と出会った。
彼と仲良くなるのは時間の問題で そしてその通り二人は深い関係となった。
彼からは その社交倶楽部の話のみならず 「ここだけの話だけど....」と秘密倶楽部の活動の話を時折してくれた。その話を聞いていると日本のみならず、世界の動きの裏側が全部見えてしまって、面白いほどであった。
「ほら 前にオスロの美術館から有名な絵画が盗まれたと騒がれてるでしょう?あれは実はね、社交倶楽部で僕のとなりに座っている男がノルウェイ政府公認の元、購入したんだよ。期限付きで。もちろんそれに見合う支援を国に提供する事と引き換えだということで話は付いているんだ。それに国民の大切な財産だから彼の私物にはできない。だから10年間だけ、彼の手元に置かせてもらうという約束なんだ。だからあと数年もしたらひょっこり何処かの廃屋から発見されたとかいってニュースになるだろうと思うよ」などとさらっと話してくれるのである。

私はある時 その彼と喧嘩をし 随分関係もこじれてしまったのであった。
二人を繋ぐのは 時折届くメールだけとなり またそれもお互いの悪かったところの非難であるとか、いかに二人は合わないかを延々と書き記した類のものだった。

私はそれをとても悲しく感じていた。彼の指摘する私への非難は図星でもあったし、二人はやっぱり合わないのでは無いかと思いはじめていたからだった。それでも私がとても悲しかったのは、合う合わないとは別の所で、私は彼がやっぱり好きだったからだ。

そんなことを繰り返したある時、寝室のサイドボードに小さなメモを見つけた。それには赤いインクで文節しか書かれておらず、それだけでは意味をなさないものだった。「実をいうとね」。
このメモは私の書いたものでは無い。しかし、メモの置かれていた場所と言い、字の色といい、あきらかに目を引くことを狙ったものであった。
私はこの言葉に続く次の言葉を探した。すると部屋の天井に近いところに、「こんな秘密もあったんだよ」とやはり赤い文字で書かれていた。

なんのことかと思いきや、枕の下に沈んでいた携帯電話からメールの着信音が鳴った。携帯を取り上げると、携帯電話の裏には見覚えのない悪戯顔をした彼の写真が3枚、メッセージと一緒に張り付けられていた。
悪戯顔に見合うように、「チュッ?」とか「好きだよ」とかいった種類のものだったけど、一体いつのまに、昨晩ベッドにはいるまでは、絶対になかったのものである。
ほのぼのとした温かく優しい気持ちになって、私は言葉にできない嬉しさを噛み締めたのだった。
届いたメールをそれから開くと 2ヶ月前の日付けで、こう記されていた。

「秘密倶楽部がたしかに叶えました」と。

そして私は彼の小さな悪戯に心を切なくし 失った淋しさが更に大きなものとなるのでした。


と、いうのは今朝の夢。





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