土筆。 - 2006年03月09日(木) 夜が明けはじめている。 もう3月なのだから 当たり前かも知れないけれど 外気が暖かくて驚いてしまう。お散歩の道すがら薄桃色の梅の花が咲いているのを見かけた。 ほどなくして桜も咲き始めるのだろう。早く春になると良いのに。 無農薬、有機栽培の八百屋が近くにあるのだが、その店先で土筆が売られていた。土筆をみると幼いころを思い出す。 私が育った町はシャトーヒルと呼ばれる住宅街だった。それを代表する1つの大きな建物があり、その名を「シャトーヒル」と呼んだ。 それは企業のエグゼクティブが単身で滞在するマンションのような物だ。その庭には簡単なゴルフのショートコースがあり、そのなだらかな芝生の丘が それを囲う柵の外まで続いていた。そこに早春になると土筆が顔をだす。私はその土筆を集めるのが とても好きだったのだ。 芝と芝の目の間から、土筆の小さな頭を見つけると 指で掘り起こし摘み取った。のびきってしまったものも然り。 まるで 春の芽を見つけたような気持ちになった。一足先に 私は春と言う季節の中で呼吸をしているような気分だった。 家にもって帰ると 母は少し驚いてみせる。しかし ちぎり取られた土筆は 時間と共にしおれて行き、そのまま捨てられるのだった。 その時 私はたしか5才か そこいらだった。 実家も もうそこからは引越してしまい、私の住んでいた家の跡地にはマンションが建てられたらしい。今ではそのシャトーヒルもなくなっているようだ。もう20年近く訪れていない。ときどき私は ワケもなくその町を訪れたくなる。多分見る影もなく変わっていて 訪れても淋しく感じるどころか、興醒めするのがオチだろう。 それでもやっぱり あの場所を 春のうららかな昼下がりに 自分の足で歩いてみたいと思う。 私は多分 何かを少しずつ失っていて その何かを取り戻そうと しているだけなのかもしれない。 きっと 取り戻す事などできないものなのに。 ...
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