『 Black Tea 』 - 2003年03月27日(木) 馴染の花屋の店先を歩いていると あまりにもゴージャスな薔薇が視界に飛び込んできて 足を止めた。 それは銀色の筒形のバケツに50本ほどの束で 無造作に投げ込まれていた。 足を店の中にすすめてそれを見ると なんとも形容しがたい色合いの上品な上品な薔薇だった。 赤ではない。紫でもない。いわゆる系統としては ブラウン系らしいが 梅色というか紅色にサビを入れてくすませたような しかしそのくすみ方がまるで天鵞絨のように上品で なんとも優雅だった。 その名も「ブラックティー」。 まさにぴったりの名前だった。 私はもともと薔薇は好きではなく このように艶やかな花であれば どちらかというと もっと日本的なものを好む。 牡丹や芍薬など 好みにあう。 薔薇は 美しいが まるで安っぽい娼婦のようなその態が 好きになれなかった。 そんな私の気持ちを知っているのか 薔薇は私の手入れのもとでは 一度として 美しい花びらを開いてはくれない。 頑ななまでに蕾の芯をかたくして とげとげしく 蕾のまま枯れてゆく。 美しくて 華やかで 棘を持ち 我儘で 蓮っ葉で 不器用で。 それなのに プライドだけは高くって。 薔薇は そんな女に何処か似ている。 ... 内分泌攪乱物質。 - 2003年03月26日(水) 茶を点て 能面を打ち 美容に遊び 本を読み 映画を楽しみ 絵画を眺める。 音楽を聞き 料理を味わい 花を飾る。 多趣味ですねといわれ 私自身が驚いた。 趣味だといえるものが 無かったから。 趣味というと なにだかに傾倒すること。 一時的に傾倒したものは 数えるほどあるけれど どれも私に憑依はしない。 私をそれらにつきうごかす理由は きっと ただの負けず嫌いか 自尊心か。 何物にも染まらぬ私は 何物も染み込まず 養分を含んで成長する樹木のようではなく 水を含んで膨張するかりそめのようなもので また水はするすると抜け落ちるとすぐに もとの卑小な私へと戻される。 何物にもなれぬから 何の役にもたてず 樹なら木って 家でも建てられよう 切らずとも 木陰をつくり 鳥の宿りにもなるだろうに 固い礎をもたないから 何も支えられずに くにゃりと曲る。 くにゃりくにゃりとする私に 添え木をしてくれたのは彼で 彼の強さで私は ようやくまともに立っていることができている。 スライムのような私はせめて 環境ホルモンのようなものにだけは ならないようにつとめねばならないなと 思ったりして。 ... いやだね。 - 2003年03月19日(水) 私は戦争の経験もないし 武力で解決をせねばならないような状況にも たたされたことがないから よくは判らないけれど あと数時間で世界の何処かで戦争が起こると思うと 無性に悲しくなる。 日常生活をおくるイラクの人たちの姿がテレビで映し出されるたびに 本当に胸が痛くなる。 当然 どちらが本当に深刻な被害を受けるのかどうかは 実際のところ 起こってみないとわからないのだけど 主導者の亡命で片が付くのだったら 一人でも死なないうちに 早く亡命してくれればよいのにと 思ってしまう。 主導者の亡命で 今回は治まったとしても 国を守るために 民族を守るために 痛みを伴ったとしても 立ち上がらねばならないと 思うことも理解できる。 イラクの人たちが 恐れもせずに 戦争を受け入れようとしているその勇気も 痛々しいけれど 勇敢だと思う。 人と喧嘩をすると判るのだけど どちらもがどちらともの常識の基準で行動していて お互いにはお互いの正義があって正当性がある。 誰だって どんなところにだって。 国と国との戦いなんて そんなこと判ったうえで 闘うのだから 余計に問題は深刻なんだなと思う。 戦争が起ころうとしているのに 着々と 窓ガラスに粘着テープを貼り付けたり 水や食料を買い込んでいる姿がテレビに映し出される。 身を守るためには その次元のことでは不可能でないのかなと 心許なく見ているけれど 戦争は スタートボタンで始るゲームではないのだし やはり日常の生活を送りながら 受け入れなければならない 危険なんだろうなと思うと とても理不尽だ。 「もし 北朝鮮から攻撃されたら どっかに逃げる?」って 彼にたずねてみると 「逃げるって どこににげるというの? 戦争が起こったって なんだって しなければならないことは 続けていかねばならないんだよ」と。 爆弾の雨のふるなかでも いつもと同じように 生活を送らねばならない、逃げ場のない「戦争」というものを もっと 自分のこととして 考えねばなと 思う。 恐いこと 嫌なことは見たくないと 目を閉じて来たけれど 今度の戦争は きっちりと目を開いて 見ていようと思う。 自分たちが 意に反しながらも加担した その責任というか その罰は きっちりと受けなければならないから。 イラク人も 北朝鮮人も もちろんアメリカ人だって 私はきらいじゃない。 だから お願いだから 仲良くしてねって感じ。 今はそんな問題じゃないんだろうけど。 ... 時の砂 - 2003年03月17日(月) 時は 違う場所で同時に 平行移動を行っているように見えるけれど 本当は違うってことを きみは気づいているのだろうか 時のバランスは 各々の 生活や 地域や 状況や 感情に従って 均衡を保とうと しているのに きみはそれを全く無視しながら きみはきみの時を進めてゆく きみの時の砂が 垂直に落ち行くときに 私の時は 風に吹かれて 放物線を描いて 同時に放たれた筈の時は 誤差を生み きみはきみの人生を 私は私の人生を 各々の 時間で 過してゆく ... 彼の病気。 - 2003年03月14日(金) 私のとても大切な彼が今 可哀相にも病気なのである。 それは内科的なものでなくて 手術をすれば 治る類のものなのだけれど 彼はだまって ただ痛みに耐えてる。 普通に歩行が出来ずに 片足をあげたまま びっこどころか ケンケンで 前にすすむのだけれど そんな不自由な足をしながらでも彼は健気にも 自分の感情に忠実に 喜びを表現しようとするし 身をかばうどころか 必死にも 自分の可能なかぎりの動きを 完全に出し尽くそうと している。 そういう姿をみると あまりにも健気で 涙が出てくるのである。 昔から 彼の足には障害があって きちんと膝を曲げて座ることができずに 片足を投げ出しながら 座っていたのだけれど 今から思うと それは予兆であったのであって それを見過ごしていた 私たちはとても 可哀相なことをしたなと 胸を傷めている。 手術は 難しいものではないらしい。 なれたドクターであれば それほど失敗することはないと 専門のドクターがおっしゃってた。 だけれども 口の利けない彼にはやっぱり不利であるし 手術によって 更に不都合が生じたとしても やっぱり彼には表現もできなければ 認識もしないだろうから 彼の身体にメスをいれることは とても 慎重にすべきことだなと 皆 思っている。 何処かに 間違いの無いお医者さんは いないだろうか。 手術に向けて 体重を落とさねばならない。 脂肪が多すぎる身体への麻酔は危険だそうだ。 麻酔が効きにくく 過剰投与によって 急激な 意識の低下や深い昏睡に陥り 危険な状況になるらしい。 と。 大げさな と思う人もいるだろうけれど それぐらい私たち家族にとって とても彼は大切な ポメラニアンなのである。 ... 人魚 - 2003年03月11日(火) 脚があることが重要であったわけではなくて なのに 私は何かの所為にしたくて この脚ではないヒレの所為にしていた きみのために私はたぶん 何も見えなくなっていて それは 本当に大切に抱きしめてくれるひとの言葉さえ 心に届かなくなってた 言葉で気持ちをつたえなくても きっと きみとおなじこの二本の脚が たぶん きみの優しさをこちらに 注がせる魔法と信じて だから私は ルール違反と重い代償すら その本当の重さにだって 気付かなくなってた きみが本当の事に気付かないのは 本当のことを見ようとしなかったから たぶんそれは 本当のことなど大切ではなかったから なのに私は脚ではないヒレの所為にしていた だけど私に何が出来たのか ヒレを脚に変える以外に 何が出来たのか 泡となってしまう以外に 何が出来たのか 悲しい物語のヒロインが 尚悲しいのは 選択肢があるようで 実は無いこと 突き動かすのは運命か それとも 哀れな女の性か ... 蜃気楼を見た貴女へ。 - 2003年03月09日(日) 蜃気楼を 本気で掴むことができると思えたのは それがあまりにも鮮やか過ぎた所為。 夏の暑い陽射しの中に現れたゆらめく影は 陽射しも気温も地熱も重なり そして貴女の目が それを捉えたから。 陽が翳り 熱が冷め 季節が変われば それはまるで 夢だったかのように 目に映ることなく 消え去る。 貴女がその目に映したものは だって蜃気楼だったんだもの。 形を持たないものを 必死で見定めようと 目を凝らすと そこに自分の 願望とか 思い込みとか 誤解とか そんなものまで影になって そこに現れるから やっぱり 貴女には 見ることができない。 目を閉じて 肌で感じて そして貴女の脳裏によぎったシンプルな直感が 一番の真実かもしれないよ。 ある事柄に対する貴女の気持ちを 蜃気楼だと 貴女は言うけれど 蜃気楼だって オーロラだって 虹だって ダイヤモンドダストだって 見られることが素敵なんだ。 ずっと其処に存在するものに 失望するからって 貴女も言ったじゃない。 幻を見たくなければ 自分から水をかけることもできるよ。 それは貴女次第。 3Dの立体画のような そのトリックを しばらく見続ければいいよ。 あなたが飽きるまで。 種明かしは貴女自身が なさいね。 そうすればもう あなたには ただの平面にしか みえなくなるから。 ...
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