地を蹴る力。 |
私はいつも、我ながら物凄いプラス思考なんだけど、年に何回か、本当にスイッチが切り替わるようにドカンとマイナス思考になる事がある。 実は今朝がそうだった。 スイッチの切り替わりはほんの些細な事。 いつもだったら気にもとめないような事。 どうしようもない事。 仕方ない事。 ダーリンが、私の手を、冗談で冷たくはらっただけの事。 しかもダーリンは早朝で寝ぼけていた。 いつもだったら 「ひどいー!」 なんて言いながら拗ねる振りをする程度の事なのに、その時、何故か、物凄く悲しい気持ちに襲われたんだ。でもダーリンはすぐに高いびき。 仕事で疲れているのを知ってるから、私は同じ布団に入っていながら、ダーリンを起こせずに独りぼっちになる。 彼に背を向けて。 どんどん悲しい気持ちに侵食されていって、でももう一人の自分が 「自分に酔うなよ」 とせせら笑っている。 私はマイナス思考を止める為に、「キック」の事について考えを巡らせる。 この場合のキックは格闘のキックではなく、中島らものエッセイに書かれていた方の「キック」だ。 自分をハイにする為のキック。 落ち込んでいる時に、その底辺を蹴って、上に上がろうとする力。 ある人は新しい洋服を買い、 ある人は体にタトゥーやピアスホールを入れ、 ある人は贅沢な食事をし、 ある人はアップテンポな音楽を聞き。 私のキックはなんだろう。 買い物・ピアス・食事・音楽。 どれも当てはまるようで、どれも当てはまらない。 ふと、セックスしたあとは性欲云々ではなく、心がスッキリしている自分を思いだし、 「ああ、そうか。私のキックはセックスなのかも。」 と思う。 だけど、今、ダーリンは疲れていて、早朝で、今日も仕事が忙しくて、という状況で、そのキックすらままならない。 そう思ってまたマイナス思考に逆戻り。 大体、この人は本当に私だけが好きなんだろうか、なんて事まで考えてしまう。 あんなに毎日「愛してる」って言われてて? あんなに毎日抱きしめてもらってて? あんなに毎日笑顔を向けられてて? これ以上何を望むって言うんだ。 何が足りないんだ。 そう思う自分と、脈略のない妄想とが闘う。 そうしてるうちに目覚ましが鳴り、ダーリンが起きる時間。 ダーリンはいつもどおり、シャワーを浴びに行ってしまう。 私は、といえば、 「何度同じことをするんだ。そんな事したって不安が膨らむだけじゃないか。いい加減懲りろよ。」 という想いとは裏腹に、また、彼の携帯を見てしまう。 携帯には何の証拠が残っていなくても、不安になる要素しかないというのに。
受信メール:0件 送信メール:0件 未送信メール:一件(女の名前のアドレスが残っている)
未送信メールの女の名前は、知り合いに思い当たる名前があったので気に留めない事にする。 むしろ、0件の受信、送信メールが気になる。 「浮気してる男はメールを全消しする」 という鉄則が頭をかすめる。 だけど凹むまではいかない。
いろいろいじってるうちに、彼の撮った写真のフォルダが出てきた。 以前撮った私の写真にまじって、見知らぬ女と二人で撮った写真が出てくる。
誰よ? 誰? これ誰? 何で二人? 室内みたいだけどここどこ? 水商売の人じゃないよね? 髪の伸び具合から見て、大阪に帰った時の奴だよね? なんでこの写真をわざわざ保護までしてるわけ? 何でこの女の写真がこんなにあるわけ?
喉が熱くなって、手が震える。 胸がドキドキして苦しい。 「ほらね。いい事なかったでしょ。」 と心で嘲け笑う自分がいる。 なんの事はない、友達かもしれないじゃん、と自分を励ましてみるけど、もうどっぷりと心の底辺にいる自分には届かない。
で、結局。 朝から欝で。 暖房器具の前で小さくなって。 シャワーからあがったダーリンが 「起きてたのか!」 とびっくりして。 それにもうまく反応できなくて。 「寒かったから」 としか言えなくて。 ひたすらボンヤリしている振りをして。 泣きそうな気持ちでも、何の確証もないうちはそれを悟らせまい、と必死になって。 でもダーリンはなんとなく元気のない私に気づいて。 いつもより沢山頭をなでて。 確証のない物への不安。 妄想が一番の敵。 そう解っていながらも止まらなくて。 ダーリンを送りだす時、笑顔で 「いってらっしゃい」 を言うが、ドアが閉まる直前笑顔が引きつり、 「お願いだから早くドアを閉めて」 と思う。 ああ、しっかり自分に酔ってしまっている自分に無性に腹が立つ。 だけど、あの写真が気になって仕方ない自分もいる。 プラス思考とマイナス思考が会話しだす。
「ほらね、やっぱり携帯なんて見るもんじゃないよ。」
「解ってたはずなのに」
「二回も同じこと繰り返して、今度は三回目。 いい加減学習しろよ。 不安要素なんて、探せばいくらでもあるんだから、そんなもんにいちいち反応してたらキリがないじゃない。」
「それも解ってる。でも、もし、もしさ、ダーリンの、べたべたに愛してるよーって意思表示が全部嘘だったとしたら? あの写真の女は私の存在を知っていて、その上で二人で会ってるとしたら?出張の時でもいつでもラブラブな電話をかけてくれるけど、それもあの女の前でやってたとしたら? 電話を切ったあと、うんざりした顔のダーリンと、くすくす笑うあの女がいたら? それって凄く馬鹿にされてるよね。 馬鹿にされてるって言うより、人としての尊厳を傷つけられてるよね。そんな男に、何も知らないで惚れてたとしたら?」
「ああ、ここまで考えるなんて。ここまで妄想するなんて。キモイよ。私。」
「うんそう思う。でも止まらない。」
「でも、すべて、私の妄想で、ダーリンの私への気持ちは本物だったら?こんな風に疑う私、すごい失礼だよね。ダーリンが知ったら、失望するだろうね。」
「だから聞けない。・・・黙ってダーリン疑ってるより、聞いた方がいいのかな?」
「・・・それはわからないよ。」
ああ、かろうじて残ってたプラス思考にまで見放された。
地を蹴る力が欲しい。
・・・そう思って文章にしているうちに気持ちが少し落ち着いた。 文章を書くことは私にとってのキックなのか。 はたまた、ただ「傍観」する為のツールなのか。
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2003年04月14日(月)
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