恋文
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雲の わずかな すきま
暮れゆく 空のいろ
森は もう影だけに なってしまった
ここではない どこかを 見ている
雨をふくんで 夾竹桃は うなだれる
しずくが 落ちる
ふと 花も 落ちる
いっしょに 光を あびている
あなたが あなたの中に 沈んでいるだろう ところ
夏になろうとする 陽は激しく照って
でも
あなたが まだ あなたのまま 沈んでいると 思っている
草も揺れない 灰色の空が ひろがっている
時計の音だけ 響いている 部屋のなか
空の下にも きっと 誰もいない
鳥の声だけ 聴いている 茜色の空
どこに たどりつくのか
ねじって まとめた髪を ぐさりと 留める
ぱたぱたと 音がして いちめんに しずくが 落ちてきた
草の匂いが 立ちのぼる
わたし自身の 匂いにも 似て
ひかりは いつも まっすぐ 降りてくる
どうやって 受けようか
やわらかに 透けていても
くらく 陰になっても
ただ かがやいていても
どれも 受けとめたものだ
土と 草と 水の 匂いがする
こんな真ん中に 倒れていたい
わたしも 解体されて
土になり 草を育み 水にかえる
わたしの むきだしの肩に ふれる髪
あなたの 胸によせると 頬をなぜる
風が たゆんでいる
そとの音は かすかになる
窓の外 ポプラが ゆっくり揺れ 生垣の木々も ざわざわと さざめいている
並んだ食器は まだ ひとを 待って 音もしない
麦畑のなか だぁれも いない
あおい空 飛行機も とばない
かたい穂は まっすぐのびている
真空のなかに いるみたい
だまって つむぐ きおくの いと
いつまでも 暮れないときには 海のなかに 漂っている
先が見えない といって なにが 不安なのか
たいして 見とおしても 来なかった じゃない
何も見えない 眠りの後ですら 朝がやってくる
朝がこなければ それはそれで もう見ることも いらないね
こんな みどりのなかに 座りこんで しまいたい
重い葉から 沁みこんでくる
空からも 降りそそぐ
すっかり 濡れそぼって いたい
雷の音が 遠くから聞こえ いつか 雨になっていた
世界が灰色になる
窓を 開けよう 雨音を 聴こう 雷鳴も 轟く
娘が 嬉々として 外に出てゆくのだ
きっと出てゆくと思った そう言ったら 笑っていた
今 ここにいる このひとよりも
遠いあなたと この景色を 見ていたいと 思った
ひとりでいる
鉢植えの 花が 揺れているのを 見ている
日は だんだん 傾いて
芝草が 光っている
影が 揺れている
まだ ひとりでいる
あなたが あずけてくる からだだけ ささえることのできる やわらかな わたしが ほしい
あなたが 歩いてゆく その場所
後ろ姿が 角を曲がってゆく
その先を まだ 追っている
ふと 変われるのかもしれない と おもう
その 次の瞬間に 目が覚める
からだを 探る
そのままの すがた
少しづつ 欠けて こぼれて 失ってゆく
少しづつ 育み 探し 与えられて
わたしがいる
雨に なっていた
黙って 歩く
花にも 草にも しずくが ひかる
わたしも いっしょに うけとめている
麦畑に 風が わたる
木々も ざわめく
雲の下 飛行機が よこぎって行く
空の 向こうを 見つめている
雨は あがり いつのまにか 青空が ひろがっていた
開け放った 窓から はいってくる
笑い声を 聴いている
わたしの なかに いれてよ
あなたの その かおり
わたしの ものに するよ
あなたの なかの わたし
いじけている わたし
あまえたい わたし
きっと たどりつけない わたし
まだ 追っている
目覚めているのか わからない
かすかに 感じる 光の流れ
からだを まるめて 抱かれている
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