空はどこまでも突き抜けてあおく すべての感情を溶かしたあとの 上澄みのように透き通った わたしたちはほおづえをついて どこかとおいところからようやくたどり着いた面持ちで グラスの中の気泡をみていた
うまれて はじけて ぱちん、と もう みえなくなったあとに ひびきだけがゆれている
鳥たちはもうとっくに いなくなってしまったのだけれど 鳥の名前を最後まで しらないままでわたしたちは ただ 貧相な腕で羽の形を真似て 飛び立つ術を持たないなりに 夏の熱気とやりあおうとした
途切れがちなしりとりと 歪んでしまったビルの壁 何かが去った後の気配を浮かべたイタリアンソーダ わたしたちはひどく自由で ばかみたいに生真面目で 投げやりな姿勢で窓際の席に腰掛けて なかなか解読されない暗号を 切り離しては並べ替えた
>>目を開けるとまぶしすぎるから今日はずっととじていようか
ぱちん、
気泡がはじける 軒先の日差しはストライプ いつだっておまつりの街に いろとりどりの人の群れ ビルのあいだに張りぼての木立 鳥たちはもういってしまった わたしはともだちの名前をくちのなかでころがして 声を出さずにどれだけ楽しめるか そんなゲームをつづけている ともだちは目を閉じたまま おまつりのすきまの あるはずのない羽音を拾い集めている
>>約束なんて、いつでも破っていいんだよ
わたしたちはなぐさめのように自由
ざわめきがすべてはばたきに聞こえる ともだちの腕はやわらかにしなり 嘘のように弧を描くと かなしい角度で立ち止まる それはひどくなつかしい角度で わたしはわたしの全ての鳥たちに ともだちの名前で呼びかける
おかえりなさい
おかえりなさい、どこかへ
わたしは別れのことばをしらない
氷がとけて イタリアンソーダの パステルが褪せていく グラスのなかの気泡も もう さっきほどにはみつからない だから
ぱちん、 ぱちん、 ぱちん、
頭のなかを音で充たして ともだちの まぶたをみつめた
空はどこまでも突き抜けて青く もういなくなった鳥たちの 面影をかくして透き通る
ひびきだけが ずっと ゆれて
>>それを拾い集めて
それを
>>拾い集めて
あつめて
>>おかえりなさい
どこか遠いところからようやくたどりついた面持ちで
ともだちの まぶたをみつめる うすく描き出された血管が からみあいながらつながっていく
まるで 鳥たちのいない空のしたを 行くための地図のように
貧相な羽でわたしたちはやまないひびきのように自由
うまれて はじけて ぱちん、 と それから
夏はまだ 始まったばかり
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