麩宇野呟秘密日記
透乎



 メモ−指定

「やめてっ。やめてってば!」
「いやだ」
「嫌いになるからね」
「どうぞどうぞ。そんな嘘、おれには通用しないからさ、いくらでも言ってよ」
「どうして嘘だってわかるのよ」
「抵抗する力が弱いもん」

 ……ぐっと、あたしはそこで思わずだまった。鋭い、鋭すぎて可愛くない。あいかわらず憎らしい。どうして、こんな奴を好きだって思うんだろう。だから、嫌だと思っているのに、どこか体は反比例する。

「……ん、やっ」
「んー気持ちいい」

うしろから抱きすくめられ、身動きが取れない。立ちすくんだまま、前に伸びてくる手を、必死で抑えていた。
このあたしたちの立ち方は、彼にとっては絶好の体勢だ。すべりこませやすく、手が届き易い。
おかげで、両方同時にきた。
寝る用のTシャツはだぶだぶで、すっと入ってきた手は、すぐさま目的地に到達した。あいにく、これ一枚しか着ていない。
下はチャック付きのズボンだったのに、いつのまにかそれは解かれていて、布の下にもう手が入っていた。いきなり、敏感なところを刺激する。

「んっやっ…まって」
「まてない」

制止するあたしの手を、まるで無い物のように気にせず、彼は手を動かしつづけた。やめてもおうと、今度は力いっぱい彼の手を握ろうろするのに、力がでない。一瞬の彼の動きで、あたしの体からはほとんどの力が抜けてしまった。
制止するては、ただ彼の手に添えているだけになる。

「このかっこういいね、味わいやすい」
「あっ」

今度は手だけじゃない。口までもが、あたしをいじめる。
首筋に、軽く吸い付いてきた。

「しばらく、こうしてようよ」

またあたしは、このままなのか。



2003年06月30日(月)



 メモーラスト

目覚めると、あたりは蒼かった。こんなときに目が覚める事がないあたしは、一瞬何がおこったのか戸惑ったけれど、なんの事ではなかった。
まだ、明け方なんだ。

はっと気がついて、がばっと起き上がった。たしか、昨日はベットの横でベッドによりかかって寝たはずだった。だけれど、今あたしはひとりで布団に包まって寝ている。寝ている部屋は同じなのに、場所が違った。
しかも、隣にいるはずの人が、いなかったのだ。

起きるのが遅かった……? それとも、明け方な気がしていたけれど、今は夕方なのだろうか。もうすぐ明るくなるのではなく、真っ暗になるのだろうか。
あたしは、混乱して頭がパンクしそうになった。
とにかく起きなくちゃ! とかけられてた毛布を横にしてばさっとひるがえしたら、同時に目の前のドアがあいた。
「え……」
「あ、起きたんだ。まだ明け方なのに、珍しい」
ドアをあけたのは、隣にいたはずの部屋の主。Tシャツに着替えていて、頭にタオルをかぶって、濡れた髪の毛をがしがしと拭いている。
「おれちょと前におきてさ。とりあえず、風呂入ってきた」
呑気にいっているその人を見つめて、あたしは目頭が熱くなった。もう消えてしまったんだと思ったのに、あたしの気なんか知らないで呑気につったっているんだもの。
あたしがじーっと見詰めていると、それに気がついたのか不服そうにこちらを振り返った。
「ぐっすり眠ってたからさ、ベットに寝かしてやったんだぞ。感謝してもいいのに、なんでそんなに睨むん……って」
ばかだ。おまえは馬鹿ものだ。
あたしは、ほっとして安心したのと、こみ上げてきた寂しさを我慢しきれなくて、目から涙を落とした。不思議なもので、一度出てしまったものはしばらくは止んでくれない。あとからあとからあふれ出てきて、下を向いて隠そうとしたけれど、隠し切れなかった。
「おいおい、なんで泣いてんだよ」
「知らない。あたしに聞かないでよ」
ベットにぺたんと座っているあたし。その顔を覗き込むように、彼はベッドの横に回ると、はしっこに腰をかけた。
「知らないってなー」
最初はどうしたらいいもんか悩んでいたようだが、やがて頭をなでてくれた。
「泣くなよ」
妙に色気のある、やさしい声。なんどもなでてから、彼はゆっくりと顔の方に手を下ろした。耳にふれられたと思ったら、ぐいっと顔をあげさせられた。
「な……」
驚いている間もなく、彼はあたしにキスをした。
「んっ!」
突然のことに、妙な声が漏れる。
そんなことはおかまいなしと、彼はキスを繰り返した。最初は、やさしくついばむようなキス。次は、長く吸い付くようなキス。そして、あたしの口を割って、深く深く口付けをしてきた。
「んー」
こんなキスをするのははじめてで、あたしはその感触に戸惑いを隠せなかった。何がおこっているのか理解できない。必死で逃れようとしたけれど、それを許してくれるほど、甘い人ではなかった。
がっしりとした腕は全く離れない。体も押してみても、口はまるではめ込んだようにくっついて離れなかった。
やがて、あたしの体に力が入らなくなった。体がほてって、ぼーっとする。
「最後だから、もう少し」
離れたと思った唇は再び塞がれて、あたしたちはベッドに埋もれた。

2003年06月24日(火)
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