lucky seventh
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2004年01月28日(水) 届かなかった手、いわなかった約束(無色シリーズ)

「わりぃ」

うつむいた彼の顔は、見えなかったけども、
わたしにはきっととても歪んでいるんであろうことが、手に取るように分かった。









・届かなかった手、いわなかった約束・












狂犬
それが彼の通り名だった。
渇いた血のような髪に、ギラギラとひかる金の双眸、
首に無造作にまかれた茶色のマフラーは、彼のその名の由来となった輪を隠し、
引きずるまでに長いそれは、獲物を狩るときはまるで尾のように揺れうごく。
殺すために狩るその姿は、まさに理性をなくした狂犬そのものだった。






「バラライカ?」

ちらほら見える陰気な人影、それを横目に男が玄関に近いホールを歩いていると、
出かけていた一行が戻って来た。
いやに騒がしいその集団の中に、見慣れた顔がいる。

あぁ、あいつもメンバーだったけ。

そんなことを考えながら、この派閥で狂犬と畏怖される男は、
不干渉がモットーの派閥の中で、珍しく自分の方から呼びかけていた。
そう、呼びかけた男 バラライカの様子があまりにも可笑しかったからだ。

鋭利な刃物ような銀の髪と透けるような乳白色の肌に、
深い暗褐色の眼を持つこの青年は、つねに何も感じさせない無のオーラを放っていた。
それはまるで無機質な人形のようで、
しかし、メンバーに囲まれるように突っ立ているバラライカ。
今のバラライカからは、いつもと違った無のオーラが放たれていた。
そして、なによりも人を人としてみないバラライカが、
自分を囲むメンバーを見ているのだ。
まるで、どう殺してやるか考えているかのように。
それは暗殺業をなりわいとする男にしか分からないような見えない程の
透明な殺気、


クス

バラライカが男の視線の先で微笑った。
青年を囲むメンバーはその美しい微笑みに魅いられたように固まる。
それがまるで合図だったかのように、
バラライカはメンバーに向い微笑んだまま杖をかかげた。
瞬間、バラライカの目の前に立つメンバーの顔が恐怖に歪むが、
それを気にもとめずバラライカは音を紡ぐために声をだそうと口を開こうとした。


「止めとけ」


冷たい、凍てつくような声がホールに響いた。
バラライカの動きが止まる、そして杖をかかげたままゆっくりと男を見た。
その眼には驚きもなにもなく、男にはただ呑み込むような色だけしか見えなかった。


「止めとけ、バラライカ」


再度放たれた警告にバラライカは何ごともなかったいように、杖をおろす。
バラライカの目の前に立つ、恐怖に歪んだ男の顔が奇妙に引き攣り安堵した。
が、男の次の言葉を聞いて凍った。


「殺るのはお前の領分じゃねぇ、俺んだ。」


その瞬間、バラライカの後ろに立っていたメンバーの1人が
真っ赤に染まり倒れた。
メンバーは目を見開いた。


「なんであいつがいないんだ?」


ほんの一瞬だった、残像も残さないほどのスピードで切り裂いた男は
楽しそうに、青年を囲むメンバーに尋ねた。


「なぁ、なんでだ?」



凶器に彩られその表情にメンバーは顔色を失った。
ただバラライカだけは、興味を失ったのようにその光景を見ていた。







2004年01月26日(月) 届かなかった手、いわなかった約束(無色シリーズ)

絶叫が聞こえた。

彼を抑える複数の手がもつれ、絡まり、

ひきずるように遠のいて、小さくなる。

それでもなお、声がなんどもわたしを呼び続けた。


「まだ、生きている。
 まだ、助かるんだ。。」

だから、お願い行かせてくれ。
ここで置いて行ったらもう、間に合わないんだ。


わたしにむかって伸ばされた手は空をつかんだ。

それはまるで届かない、届かなかった彼の絶望。。。





・届かなかった手、いわなかった約束・









いつも通りの帰り道、いつもと違うのは声が聞こえたこと。
それは大人の男の声で、でもどこか小さな男の子のような声だった。
そして、それはどこか求めるような声で、だから嬉しくて、
ついついわたしは応えてしまったのだ。




「バラライカ」
わたしが彼の名を呼ぶと、彼はいつもほんの少しくすぐったそうに微笑む。
呼ばれることがうれしいように、まだ慣れていないかのように、
名前を呼ばれることを知らなかった、そんな子供のように、大人のように。

それはいつまでも変わらないと思っていた。。




きらり、と空が光る。
それは召喚の前触れ、敵の一人が呼んだ強力な術。
光る刃が彼に降り注ごうとしていた。
けれど、呪文を紡いでいる彼はまだ気づいていない。

「バラライカ!!」

わたしは叫んだのと同時に、ほんの少し後方にいる彼に向かって走り出した。

(まだ、間に合う。)

彼が驚いて、わたしを見たのと同時に、私は彼を突き飛ばした。
無防備な背中からズブリと嫌な音がきこえた。
その次の瞬間、遠のきかけた意識を取り戻すかのように痛みが体を襲う。
すべての音がきえたように感じた、視界がほんの少し歪む、
ひどい鈍痛を頭に感じた。倒れる時に頭を思い切りぶつけたのだろう。


「がは…っ」


口からうめきがもれた、
それでもわたしは彼の無事を確認するために力を振り絞り、彼の方に目をむけた。
そこには、真っ白に無表情でわたしをみる彼がいた。
それはまるで初めて会ったときのような人形のような姿だった。


「ば、、らぁライ カ?」


わたしは彼の名を呼んだ。
魔法がとけたように、目が合うと、
とたんにそこには泣きそうなほどに顔を歪めた彼がいた。
手がカタカタとふるえていた、見えないのに彼の目がゆらゆらと目を
ゆらめかせていているのがわたしには分かった。


「いやぁ・・・  」


声にならない悲鳴が彼の口からもれた。


「やだぁ・・・・・   」


同じ派閥の構成員が息を飲んだのがわかった。
かつて、これほどまでに彼が混乱したところを誰も見たことがなかったのだ。
そして、誰もが恐怖した。
詠唱が途中だった不完全な術が暴走しようとしていた。
光が彼をつつみこむ、魔方陣が彼の足元に広がろうとしていた。


流れ落ちる涙に気づきもせずに、彼は私に向かって手を伸ばそうとした。


そして、その次の瞬間、彼は同じ派閥の構成員に押さえつけられた。



「はなせえぇぇー!!!」


血まみれの私の姿にくぎ付けのまま、彼は叫び、もがいた。
だが、誰も彼のいうことを聞こうとはしなかった。
少しずつ、彼と私の間が開いていく、彼は焦ったようにさらにもがく。


「いやだ、お願いだ!!やめてくれ!!!!」


目の前の現実に彼は泣き叫ぶ。


「彼女を助けさせてくれ!!」


おびえた子供のように、彼は私に向かい手を伸ばす。



「まだ、生きている!
 まだ、助かるんだ!!!!」

だから、お願い行かせてくれ。
ここで置いて行ったらもう、間に合わないんだ。




遠のいて行く、彼に向かってわたしは笑った。
「どうかお幸せに、マスター」
あなたの幸せを祈っています。


そして、振り向いて強気に笑った。

「煮るなり、焼くなりお好きにどうぞ。」

彼は複雑そうに私を見た。


2004年01月13日(火) 薄紅色ノ煉獄





燃えろ

燃えろ

両腕を天(ソラ)にのばし

きみもぼくも笑う



燃えろ

燃えてしまえ





















薄紅色ノ煉獄
ウスベニイロ レンゴク

















いつもと変わらない帰り道
桜並木のした、少女がほんのすこし前を歩いて
その後ろに少年がすこし離れてあるく。


「ちぃ」


歩みをとめることなく、
少女は前をむいたまま、少年 千歳(チトセ)の名を呼んだ。


「もうすぐ……だね」

「あぁ」


少女 愛(イツミ)の声はいつもとなんら変わりない声音であって、
それに答える千歳の声もいつもと同じだった。


「あと、少しだな」

「うん」


ただ見えない2人の目だけが、唯一ゆれていて、
見えない視線をおたがいに振り切るように、千歳は下に愛は上に顔をむける。
いつのまにか足取りは止まっていた。


「もうこうして帰ることもおしまい、なんだね」

「あぁ…」

「今でも思い出すよ、こうして帰るようなった日のこと」


ほんの少しだけ声をたてて笑う、愛の声が千歳は好きだった。
空気が少しだけゆれるその笑い方がみょうに気に入っていた。


「……俺も覚えてる。いきなり手を掴まれたからなびっくりした」


ひくく、千歳も笑った。
俯いたまま、ずいぶん昔のことなのにまるで昨日のことのように
思い出して笑う。
愛はそれを愛おしそうに見た。


「目、丸くして驚いてたよね」

「…名前も顔も知らないやつに、『これから付き合って下さい!』
なんて言われたら、誰だって驚くだろ?」

「でも、付き合ってくれたよね。
断られるの覚悟だったから、私の方が驚いたよ」

「あぁ、自分から言っといて驚いてるんだから。
あの時は本当におかしな奴だと思ったさ」


懐かしい
それは中途半端なおもいで

ただ優しいだけの
ただ温かいだけの

おたがいを止めてしまう関係の始まりのおわり

手を握りあうことも
腕をくむこともしようとは思わなかった。

ただ、側にいるだけで心地よくて
この時間だけがつづけばいいと思っていた。


「だけど、おしまいだね」

「あぁ、もうおしまいだ」


誰もいない公園で2人の視線はまじわらない。
まじえわることえを拒否するように、
愛は上を、千歳は下を、
ただ見つめつづけていた。
見えない何かをみようと、見つめていた。


「でも、そしたらすこし物悲しいね…」


ななめ前で、愛が天(そら)から降る春のおとずれに目を細める。


「そうだな…」


ななめ後ろで、千歳が足下に落ちてくる色をおって顔をあげる。

立ちつくしたまま両手の手を天(そら)にのばす愛のすがたが千歳の目の中に映る。


まるで薄紅色の花弁がすべてを焼きつくしているようだった。


愛も

千歳も

この思いも

この思いでも

浄化するように

すべて

すべて

焼きつくしていく。


燃えろ

燃えろ

すべてを焼きつくして。



それはまるで煉獄のようで
すべてを焼きつくすように花弁は2人の上にふりそそぎつづけていた。











ただそれだけなのに胸がくるしかった。

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交わらない平行線の道を歩く男女の思い。
2人は立ち止まれないし、止まれない。
自分のためにも、相手のために。


2004年01月02日(金) つないだ手、叶わなかった約束(無色シリーズ)

「いつか」

微笑みながら、あの人は言った。

「いつか     。」

それはわたしのすべてだった。



・つないだ手、叶わなかった約束・




そこは闇だった。
前も後ろも、上も下も何も見えず、わたしは首を傾げた。
何故、自分がここにいるのか。
まったくといっていいほど分からなかった。
すると、突如なにもなかった世界に音が生まれた。
暗い、深い、闇の奥で誰かの呼び声が聞こえる。

 「古き英知とーーーーー」

その声に合わせて、うすぼんやりと光も生まれた。

 「我が声に応えよ!」

唐突に覚醒した。
目覚めると、目の前に一人の男が立っていた。
薄い茶のヒトミにそれとお揃いの濃い茶のヒトミを持つ男。


それがわたしと、あの人のファーストコンタクトだった。




その頃のあの人は、無色の大幹部である男の妻、ツェリーヌを姉に持つ、
まだ、若き派閥の幹部候補生だった。
未知数の潜在能力を保持し、誰もがあの人を恐れていた。
自ら進んで派閥に属していながらも、あの人は何もしようとはしなかった。


そしてあの人、リュシィとわたしは出会ったのだ。



「こんばんわ、お嬢さん」


床一面にえがかれた魔方陣の中にすわるわたしに向かい、
血まみれのリュシィは微笑んだ。





目覚めたばかりのわたしは、それを見て、不思議そうに首を傾げた。

「わたしは誰?」

目覚めたばかりのわたしは、すべてを忘れていた。










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-■テいつか。
と、あの人は言った。 人形として目醒めた私の名前をみつけ、喚んだマスター。
無色の長である男の義弟であり、自身も幹部として所属していたあの人。
今思うと、その頃からもう知っていたのかもしれない。




人は思い出だけでも、生きてゆける。。


そんなのうそだと叫んだ。
けれど、実質私は彼の思い出に生かされていた。


2004 1/14改訂


ナナナ

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