Sports Enthusiast_1

2012年10月18日(木) サッカー日本代表報道に違和感

日本代表の欧州遠征2試合について、多くのスポーツジャーナリズムが見当違いの試合分析をしているようなので、糺しておきたい。

第一は、初戦のフランスとの試合について、日本が格上フランスに勝ったのは、日本がしっかり守って、カウンター攻撃を仕掛けたことによる、というもの。この報道は、結果からは正しく思われるので説得力があるのだが、日本は最初から守ろうという戦略があったわけではない。なによりも、遠征前、ザッケローニ監督は「引いて守るような試合はしない」と明言していたのだから。

日本は、単にフランスに押し込まれたに過ぎない。押し込んだフランスはどいうわけか、フィニッシュが決まらず、試合終了間際まで得点が上げられなかった。そんな試合展開にあって、フランスがみせた一瞬のすきを突いたのが、DF今野の機転の利いたカウンター攻撃だった。その一撃で、日本はフランスに勝った。この勝利は、ザッケローニの作戦の功ではない。試合中の選手の機転の結果である。しかもそれが決勝点につながったのは、奇跡的な確率である。何度も期待できない。

第二はブラジル戦――日本が得意のパスを回し、攻撃の形をつくった、日本は調子が良かった、が、決定力においてブラジルと差があったというもの。これもおかしい。ブラジルは作戦として、日本にパスをまわさせ、日本のラインを前につり出しておいて、カウンター攻撃で4点をとった。惜しくもゴールポストに当たって外れたシュートがゴールインしていれば、日本は二桁に近い失点で負けた可能性もあった。日本とW杯予選を戦うイラクは、ブラジルに0−8で負けたそうだが、日本もそれに近い負けである。それくらい実力差がある。

重要なのは、日本がブラジル(FIFAランキング14位、日本23位)と同程度の力量の相手と試合をする場合の戦略の構築である。といっても特別新しい戦略があるわけではない。日本が格下相手にとられる戦法である。日本が図らずもフランス戦で強いられたような戦い方である。引いて守って一撃のカウンターにかけるという試合運びである。それでは進歩がない、という意見もあろうが、玉砕を選択してはならない。試合に勝つ確率が高い戦法を選ぶのが、指揮官の務めであり、それに従うのが選手の使命である。

現在の日本代表の実力は、試合結果、得点差を超えて、フランス、ブラジルと比べれば、あまりにも劣っている。それが現実なのだから、はっきりと言わなければいけない。スポーツジャーナリズムは、実力差を明確に報道しなければいけない。それをしないのは、「代表ブランド」を傷つけてはいけないという配慮があるためか。いかに取り繕うとも、弱いものは弱いのである。



2012年10月17日(水) やっぱりあれは奇跡だった。

国際親善試合:日本0−4ブラジル>◇16日◇ポーランド・ウロツワフ

奇跡は二度、起こらなかった。ブラジル戦の完敗で、日本がフランスに勝ったことが幸運であったことを証明した。

日本とブラジルの力量の差は明らか。ブラジルは日韓W杯優勝以来、ドイツ、南アフリカの2大会でベスト8にとどまった。2014年の自国W杯開催優勝に向けて、いま、チーム強化に余念がないものの、往年の「王国」の面影はない。選手の個性が薄れ、小粒になった。南米でも“常勝ブラジル”という神話は崩壊している。それでも、アジアの日本との実力の差は縮まっていない。

さて、大雑把な話、日本代表の欧州遠征2戦は、日本サッカーの実力を見極めるいい材料だった。自国の親善試合でほぼ負けなしの日本代表だが、欧州、南米の力のある代表チームとの試合ではそう簡単に勝てないことが明らかになった。アウエーの試合を数多く、経験しないと、日本代表は強くなれない。

この2試合の経験を踏まえるならば、日本代表の今後の方向性は明らかだ。1つは、実力差がある相手との戦い方だ。どうしても勝ち点を上げなければならない場合、日本はフランス戦、ブラジル戦のような玉砕をしてはならない。幸いにして、遠征では日本はフランスに勝ったが、あのような勝利を期待してはいけない。日本も守備的な戦い方のノウハウも蓄積する必要がある。守備的な試合を潔しとしない日本のサッカー風土に迎合することなく、簡単に負けない技量を蓄えてほしい。

もう1つは、トップ下のあり方だ。フランス戦でハーフナーが機能せず、そのことを踏まえて、ブラジル戦は本田をトップ下に起用して、一定の成果を上げた。しかし、相手DFの裏に飛び出せる駒がいない。香川、清武もスピードがあるが、裏を狙う動きは不得手だ。ポストプレーが本田の役割なら、2トップのような形で、たとえば、Jリーグの得点王・佐藤寿人のようなタイプが得点を上げる可能性を感じる。

日本代表の現下の最重要課題が、アジア予選突破であることは致し方がない。そのためにアジアで勝てる布陣をザッケローニが採用することも仕方がない。しかし、いつまでもアジア仕様であれば、日本は世界の強豪と相渉ることはできない。親善試合であっても、簡単に負けない試合を何度もすることだ。



2012年10月13日(土) サンドニの奇跡か

◇国際親善試合.フランス0―日本1.12日.フランス・パリ近郊サンドニ

◎フランスのミスに救われる

へへへ。日本がアウエーでフランスに勝ってしまった。筆者はこれまで、“アウエーで弱い日本代表と”非難していた関係上、日本の想定外の勝利に言葉を失ってしまう。

試合内容はご覧のとおり、前半、日本はまったくフランスに歯が立たなかった。それでも、奇跡的に無失点で前半を切り抜け、後半、動きの悪くなったフランスからカウンターで決勝点をあげた。日本は文字どおりワンチャンスをものにして勝利をつかんだ。

フランスはベテランのリベリ、エブラを先発から外し、どちらかといえば、若手中心の布陣。それでも、個の力量ではスピード、パワーとも、日本を大きく上回っていた。ただ、欠けていたのは、フィニッシュを決めきる心身両面の技量であった。フランスの若手代表選手は、国際試合の経験不足、俗な表現を使えば、「場数」を踏んでいないということ。後半23分、フランスは切り札リベリを投入して局面の打開を図ったが、リベリのプレーは独善的で個人プレーに走るばかり。周囲とのコンビネーションを深めようという意識は見られなかった。

◎難題を抱えたフランス代表

日本はそんなフランスに救われ、とにもかくにも、前半を無失点で切り抜けたのが勝因だ。それ以外にはない。そんなフランス代表はといえば、1998年の自国W杯優勝後、2002年(日韓で予選敗退)、2006年(ドイツで準優勝)、2010年(南アフリカで予選敗退)とW杯には出場し続けているものの、最近の成績は芳しくない。2008年ユーロでは予選敗退、2010年の南アフリカ大会では、大会開催中に代表監督と主力選手が衝突し、チームは空中分解。予選リーグで敗退してしまった。2012年ユーロ大会もベスト8にとどまった。現監督のデシャンは、2014年のW杯予選突破はもちろんのこと、本戦でも好成績を期待される――老舗再建を託される――切り札的存在の指揮官だ。

彼は1998年のW杯優勝チームの主将であるが、指揮官として彼が描くフランス代表の課題は、過去の栄光を捨て去ることにあるようにみえる。98年当時の史上最強のフランス代表には、ジダン、アンリ、トレゼゲ、ビエラ、デサイー、リザラズとずらりとスター選手が揃っていた。ここまでのタレントが揃うのは50年に一回あるかないかのこと。過去の栄光の再現は難しい。そこで、監督デシャンに課せられた使命は、ある程度のスピード、パワー、技術をもった選手を鍛え、コンビネーションと組織力で勝てるチームをつくること。そういう意味で、いま現在のフランス代表は発展途上、チームづくりの段階だとみられる。

◎負けたフランスにとっては“サンドニの悲劇”

そればかりではない。フランス代表が直面する最重要試合は、16日のアウエーでのW杯予選スペイン戦。デシャンはベテラン(リベリ、エブラ)を温存し、若手の底上げ、経験を積ませる試合として日本戦を位置づけたのではないか。そんなフランスに日本は勝った。実力で言えば、日本はフランスと5回試合をして1回勝てるかどうかの力量である。その1回が今回だったと筆者は考える。

2001年3月、フランス人トルシエに率いられた日本代表は、当地において0−5で大敗した。この試合は、“サンドニの虐殺”と呼ばれ、日本と世界の力の差を示したものとして、日本のサッカーファンの心に深く刻み込まれた。しかし、先述のとおり、フランスはその後、凋落を続け、直近のW杯南アフリカ大会で予選敗退した。一方の日本は同大会で予選突破を果たしている。日本が力をつけ、フランスが力を落としているとはいえ、前出のとおり、日本がフランスに勝つのは5回に1回程度だと思われる。勝ったには勝ったが、日本が攻撃の形をつくれていたわけではない。

そんな日本にフランスは負けた。スペイン戦に尾を引くいやな負けである。スペイン戦に悪い影響を与えれば、フランスにとってこの敗戦は“サンドニの悲劇”と評してもおかしくない。一方、日本の力量が判明するのは、16日のブラジル戦である。


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