妄言読書日記
ブログ版
※ネタバレしています
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2013年03月26日(火) |
『たったひとり』(小) |
【乾ルカ 文藝春秋】
大学の廃墟探検サークルの5人が、27年前に土砂崩れにあって廃墟となっているラブホテルに行ったところタイムループに巻き込まれるという話し。 タイムループは土砂崩れが発生する30分前から始まり、タイムループが起こるたびに土砂崩れまでのタイムリミットが二分ずつ減るっていうのが、ちょっと変わったルール。
27年前の事故ではホテルで身元性別不明の死体が一つ発見されているので、5人のうちの一人が犠牲になって当時の事故を再現すればループから抜け出せるのではないか、という仮定で、5人がそれぞれホテルに残ることになる。 その5人の視点で語られる。 目次をみれば、5人が終了しても終わっていないことが分かるのだけれど、どうやって再現するか、本当は当時何が起こっていたか、が徐々にわかってくると同時に、5人それぞれの嫌な性格が浮き彫りになってくるのがおもしろい。 特に女子二人のキャラはとてもいい。
全然ハッピーエンドじゃないんだけれど、なぜかじめっとした印象を残さないのは、『夏光』の時みたいでよいな。 乾ルカにはホラー寄りの話しを書いてほしいなぁ。
2013年03月22日(金) |
『特捜部Q 檻の中の女』(小) |
【ユッシ・エーズラ・オールスン 訳:吉田奈保子 早川書房】
デンマーク発のミステリー小説。 特捜部Qシリーズは今のところ、3作目まで翻訳されていてこれは第一作目。
主人公はとある事件で同僚一人が殉職、一人が寝たきり状態となってしまった、カール・マーク警部補。 元々性格に難あり、だったのが、この事件をきっかけに一層扱いにくくなって新設されることになった、特捜部Qに異動に。 過去の未解決の重要事件を再調査する部署、まあ、日本だとケイゾクみたいな。 カールの扱いとしては特命係にも近い。 カールの相棒はシリア人のアサド。事務手伝いで警察官ではないらしい。 粗筋には大抵、アサドのことを変人と書かれているが、どっちかというとカールの方が変人っぽく見える。
手始めに調査を始めたのが5年前に発生した女性議員失踪事件。 海に転落死したと思われているし、カールたちも死んだものだと思って捜査しているのだが、実は5年間監禁されていることが、カールの視点と女性議員ミレーデの視点で書かれているので読者にはわかる。 なので、カールがずっとさしてやる気もなく、時折別れた妻に悪態ついたり、女性カウンセラーを口説いたり、上司ともめたりしているのを見ていると、早く見つけてやれ!とやきもきする。 小説の中盤とは言わないけど、三分の一くらいの時点で生存に気づいてくれればもうちょっと緊張感が出たんじゃないかなーという気がする。 それくらい、ミレーデの監禁状態が悲惨なので、カールよ、もっと真面目に捜査を!と思ってしまう。
こういったミステリーで、殺人事件ではなく、被害者がまだ生きているというのは珍しいなぁとは思う。 警察物としてはいまいち捜査のはかどりが遅いので、特捜部がもう少し定着してきたらもっとスムーズに捜査できるのか、それともコペンハーゲンっていうのはそういうものなのか、馴染みのない土地が舞台だと判断しにくい。 馴染みがないといえば、デンマークは同性婚OKなのか。全く本筋とは関係ないけど。
物珍しい印象はあるけど、既存のミステリーと比べてすごく新しい印象はないです。
2013年03月21日(木) |
『ジャンゴ 繋がれざる者』『オズ はじまりの戦い』(映) |
【監督:クエンティン・タランティーノ アメリカ】
マカロニ・ウエスタンは観たことないんだけど、ジャンゴ対決だとスキヤキ・ウエスタン派だなぁと思いつつ、ずっとバッカな映画だなぁという脱力的楽しさはありました。 よくよく思い返して、タランティーノ映画観たことなかったのですが、思ってた通りのタランティーノって明るいバカだなぁという印象通り(褒めてる)
主役であるジャンゴ(ジェイミー・フォックス)よりも、ジャンゴを賞金稼稼業に誘った、シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)の軽さが印象的。 ずっとふざけたおっさんで、ジャンゴに対して師匠的な役割を果たしたんだかなんなんだか。なんでドイツ人の医者が、アメリカで賞金稼ぎやってるのかもわからんし。 同じくらい自由演技を披露していた、スティーブンことサミュエル・L・ジャクソンも楽しそうでよかったねー。
自由演技を謳歌していたベテラン陣に比べて、レオナルド・ディカプリオは相変わらず真面目な悪役っぷりで、弾けるということを……。 レオ様っていつでもどこでも真面目な青年だなぁという印象が付いて回る。 でも休業しちゃうのは残念だなぁ。 無理に悪役やらなくてもいいのになぁ。
+++++++ 【監督:サム・ライミ アメリカ】
『オズの魔法使い』におけるオズこと、オスカーがあちらの世界へ行きどういう経緯で魔法使いになったのかという部分が描かれる映画。 原作は子どもの頃に絵本で読んだなぁというおぼろな記憶。で、あとで調べたら原作けっこう長いんですねー。
ま、それはそれとして。
オズが初っ端からペテン師で、女ったらしでダメ感全開。 気球が飛ばされて初めて出会う、西の魔女セオドラ。 世間知らずでピュアなセオドラがオズを好きになっちゃって、のちにグリーンゴブリン化しちゃうあたり、全部オズのせい!オズが気を持たせたせい!!と思って、セオドラがひたすら可哀相になる。 セオドラの姉東の魔女・エヴァノラが、いまいち何したいのかわからないが、南の魔女・グリンダへの嫉妬ということでいいのか。
どう見ても魔女っていうかグリーンゴブリンだし、オズっていうかハリーだし、サム・ライミ監督まだスパイダーマン撮りたいのか?
この後、ドロシーがやってきて魔女倒されるんでしょー?と思うと、なんかこう、セオドラが可哀相!可哀相!!という気分ばっかり残るなー。 オズがグリンダとどうなるでもないし。
陶器の人形娘と飛ぶサルは可愛かった。
【ミシェル・ウエルベック 訳:野崎歓 筑摩書房】
『闘争領域の拡大』と同様、それほど入り組んだ話しではないのだけれど、説明に困る小説。 ブリュノとミシェルという二人の異父兄弟の物語が交差し合いながら交互に語られていく。 ブリュノは『闘争領域の拡大』にも登場したようなモテない、いわゆる童貞こじらせ系をもっと悲惨にしたような人物。 ミシェルは人間社会に無関心な天才科学者。 ブリュノの人生は痛ましく滑稽だが、ミシェルの人生は孤独で無感動。
両極端の人生を語る語り手が誰なのか、最後の章までわからない。 最後の最後、ミシェルの功績がなんだったのか明確になり、2200年という未来が提示されて初めて、二人の人間を通して現代社会、小説の中では過去の世界を記録していたことがわかる。 その視点から見たとき、やはりブリュノは滑稽で惨めに見えてくるけれど、哀愁を感じずにはいられない。 2200年の世界にブリュノ的な人間はいないだろうけれど、それが幸せであるかどうかはわからない。
幸せな気持ちにはこれっぽっちもならない小説だけれど、不幸や絶望への寄り添いかたはなんだか優しい。
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