妄言読書日記
ブログ版
※ネタバレしています
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2011年11月29日(火) |
『風の王国 官兵衛異聞』(小) |
【葉室麟 講談社】
キリシタンとしての黒田官兵衛の側面を描く連作。 三話目くらいまで連作だと気づいていなくて、なんだか色々と飛ぶ小説だなぁと思ってしまった。 さらっと本能寺が官兵衛の謀略だったりして、えっと思うことがいろいろあったんですが、これもどうやら『風渡る』という小説を先に読んでおくべきだったかららしいと読後調べて気づきました。 どうも『風渡る』の番外編っぽい内容のようです。
「太閤謀殺」 よもやボルジア家のことが登場するとは思わず。 太閤が謀殺されるまでを日本人修道士ジョアンの視点で。
「秘謀」 官兵衛死後、又兵衛が黒田家を出された理由と、その後、夏の陣に参戦した理由が語られる。 又兵衛の忠義が熱い。 そして長政と不仲だったわけでもない、という解釈が個人的にちょっと嬉しい。
「謀攻関ヶ原」 『風の如く水の如く』では、如水と組んだ第三勢力は徳川秀忠だったけど、こちらは織田秀信。 ただ理由がちょっと違って、第三勢力として漁夫の利を狙うというわけではなく、東にも西にも勝たせないというのが如水の真の狙いだったという解釈は他ではなかったけど、なんとなく納得できるものがある。
「背教者」 修道士だったハビアンが人を殺してしまうにいたるまで。 この手の話はいっぱいあるので、殊更何も思わず。
「伽羅奢―いと女覚書」 ガラシャの侍女いとの視点による、今までのエピソードの捕捉のような話し。 ガラシャの死については謀攻関ヶ原で語られてたので、改めて書くほどのものでもない気がしたけど、実は光秀がまだ生きていたというのがポイント。 とは思うんだけど、別に死んでてもいいような気もしました。
2011年11月25日(金) |
『風の如く水の如く』(小) |
【安部龍太郎 集英社】
関ヶ原合戦後に、黒田如水が東軍を裏切っていたのかどうかを調べる、本多正純や、その調べを受ける、黒田長政や竹中半兵衛の息子重門の視点から書かれた小説。 時系列が前後する上、関ヶ原にいたるまでにあった諸々の事件なども絡めてあるので、関ヶ原の合戦がどんなものだったか、少なくても東軍、西軍の面子を把握していないと訳がわからなくなるであろう、中〜上級者向けの内容。 私もそこまで詳しくないから、途中訳がわからなくなってました。
関ヶ原は三成と家康の争いと言われているが、第三勢力として如水が裏で暗躍していたのではないかという説に則ったものですが、詳しくないのでどれくらい的を射ているかはなんとも。 まあ、しかし本当にこれだけ暗躍してたら黒田家こんなに領地もらえてたかな、もらえてたとしても、その後今に至るまでお家が残ったかな、という気もしますけど。
しかしこの手の小説にしては珍しく、如水、家康、三成それぞれが悪人に書かれてなくてよかったです。 黒田親子に確執があったのがちょっと残念だったけど。
最後まで読んで、風の如くがだれのことかわかります。 風……?とちょっと思いますけど。
2011年11月20日(日) |
『ゴーストハント6 海からくるもの』(小) |
【小野不由美 メディアファクトリー】
シリーズの中でも割とページ数が多いのは、ナルが戦力外なせいでしょうか。 ナルが通常運行だったら、あと100ページは短縮したかも。
なんだかんだで、また毎度のメンバーが集まって、呪われた一家の元に。 途中で家計図が欲しくなってきたけど、結果的にその辺にはさほど意味がなかったから、頭こんがらがった人は適当に読み流せばいいと思うよ。 あまり今回、麻衣の能力は発揮せず、その代わりようやく綾子の見せ場が。 よかったよかった。
並みの作家ならこの一作に放り込まれたネタで5作くらい書くであろうことを、一作にまとめる小野主上の気前のよさ。 次の最終巻で何が飛び出してくるのか楽しみです。
2011年11月19日(土) |
『大軍師黒田官兵衛』(小) |
【桜田信也 祥伝社】
全然知らない作家さんなんですが、読んでもあまり作者のカラーは見えなかったです。 黒田官兵衛の小寺家時代から、晩年までを一冊に。 一冊なので、史実を並べただけの部分が多くて、もうちょっと解釈みたいなものが見えるとよかったのになぁと思いました。 秀吉が天下人になって以降は、アンチ秀吉(アンチ織田)なのがけっこう前面に出てきて微妙な気分。 まあ、そりゃあ褒められた人間じゃないけども、この人たちは。
吉川英治の小説だと、半兵衛の死に目に間に合ってましたけど、たぶん、間に合ってないこっちの方が史実なんでしょう。 小説としては吉川版くらい脚色してる方が楽しいけど。
2011年11月14日(月) |
『叫びと祈り』(小) |
【梓崎優 東京創元社】
これが作者のデビュー作。 連作ミステリーで、一編一編趣向が凝らされているけど、トリック的にはわりと甘い。 が、そんなことより全体の静かな雰囲気がよい小説。 全編、舞台が日本ではないのもまた珍しくて、ファンタジーめいた不思議な読み心地。 森博嗣の短編集に雰囲気は似てるかな。 「叫び」あたりはそれ推理するの無理じゃない?と思うようなのもあったけど、次回作が楽しみだなと思うに充分でした。
【吉川英治 六興出版】
今回は吉川版。 童門版が、関ヶ原から晩年をメインにしていたのに対し、こちらは秀吉に出会ってからの数年の話し。 吉川先生は三国志以来だけれど、登場人物たちがきらきらなんだよなー。なんというかピュアなんだよなー。 官兵衛(如水。作中ではついに如水とは呼ばれず。タイトル間違えだよな)といい、秀吉といい半兵衛といい、みんなピュアです。 吉川先生のいいところ。
やっぱり、官兵衛といえばのエピソードは、囚われている間に、信長に謀反を疑われるというのが欠かせないように思うので、それが思いっきり抜けてた童門版はちょっと物足りなかったな。 かといって、吉川版は本当に、秀吉、半兵衛との交流がメインだったので、半兵衛が死んでしまうあたりまでしなく、それはそれで物足りない気もしました。 このあと、結局、秀吉にも疑われるんだよなーと思うと、官兵衛って何かこう信用ならん印象がつきまとう人物だったんだろうなぁと思います。 頭切れすぎるのも困りもの。 しかし、黒田家は仲良くていいよね。
物語の三分の一くらいが、荒木家に幽閉されてる官兵衛だったので、地味です。 よく生きてたなー。というかよく殺されなかったなぁとこのエピソード聞くたびに思う。
【童門冬二 富士見書房】
最近、黒田官兵衛が気になるので読んでみた。 童門先生の小説は初めてだけど、だいぶ読みやすい。 読みやすすぎやしないかと思う部分もありますが。 同じエピソードを何回か説明したりする。 そして現代サラリーマン向け歴史解釈と言うか、処世術的なことが多めで、正直小説としてはどうなんだろうなぁと思いました。
まあしかし、如水はなかなかに憎めない可愛い奴です。 頭が切れすぎる(読んでるとどの変が切れ者なのかわかり難いけど)わりに、不用意な発言で主君に不審がられ続けるけど、妙なところで人望があったりする。 坂口安吾の「黒田如水」の解釈と似てますね。 ひょっとしたら参考にしたのかもしれない、とあとがきで安吾に触れてるのを見て思いました。 もうちょっと、信長、秀吉時代のことがわかるとよかったのになぁ。
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