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2007年12月31日(月)
「推理小説」








「 あなたの最后の 不在証明が崩れて
 指先の煙草を震わせる
 ベージュのカーテンが 風をはらんで
 時計が音を刻んで 刻んで

 つまり僕たちの 推理小説
 答を僕が先に読んだ
 これから後 過ごす時間は
 僕にはただ苦痛なだけ
 すなわち今夜で さよなら」



            さだまさし「推理小説(ミステリー)」
            アルバム 「印象派」 から







午後の、ですか
その時刻にわたくしは
家におりました、はい
証明するひとなんぞいるわけございませんが
ひとりでしたから
何してたって、あーた
映画観てましたよ
何観てたって、なんでもいいでしょ
あの名作、
「オリエント急行殺人事件」なぞを観てたわけですが

実にあの映画はその、
なんですな
名探偵ポワロだかブラウンだか
シェーバーのですね、
ずばり名推理が冴えわたってひかっちゃって素晴らしくって
まさかあれが意外にもこうなってああなって
そこんところがあそこまでなっちゃうとは
まっこと見事にオリエントで
急行の名にふさわしい
めくるめく展開がぐるぐるでもって事件でして
そこで犯人がわかるとは
はたして誰が予想し得えたでしょうし
まったくもって
あいつもこいつも
まさかやつらまでもが
大どんでん返しにつぎつぎと
いったいぜんたいどうなってるのよって
どひゃーっときて
ざざーと戻って
ずるっていったかとおもうと
すとんっ…と感激しちゃってて
あれれという間に
どうにもこうにもいかなくなっちゃって
そうこういううち
もう終わってるという大喝采の
とてもじゃないがつまらないとは
おくびにもだせない
正真正銘、名作に間違いなかったですね、ええ

で、ありますからして
ワタクシはやっておりません













2007年12月24日(月)
海と帽子








おっきな蒸気船の甲板から
もっとおっきな海のお腹に
真っ白な帽子が落ちてきた

海が小さな帽子に話しかけると
帽子は海のお腹でくるくると回る
海はそれで嬉しくなっちゃった
海がそれまでお話してた
月って幾ら話しかけたってなんにも言わない
微笑んだかとおもうとすぐに消えてしまうんだもの

海と帽子がお話をする
海と帽子がお話をする
帽子はくるくる回ってる

海は帽子と話すのがたのしいぶんだけ
そのうちだんだん困ってしまった
海はとってもおっきいから
波ひとつ立てないようにするのはひと苦労
いっそ帽子をひとおもいに飲み込んでしまって
海のお腹深くに沈めてしまったほうがいいのかしら
そしたら帽子はどこにもいかずに
海といてくれるにちがいないけど

けれども海はその静かさを守ったし
そんな海の苦労を知っているから
雲は雨を降らせなかったし風も強くは吹かなかった
やがて帽子は小さな海岸に着いて
小さな女の子が嬉しそうに拾っていった

海は帽子を見送ってから
おっきな波をひとつだけたてて
おっきな海へと引きかえしていく
もうすぐもうすぐ夜がきて
真っ白な月が微笑みかけるから
海はまたそれを見上げることでしょうね











2007年12月17日(月)
一本の煙草(2)とライター








「ライター」


なにもはいってないよ
おなかをさすってる
結局

ライターは点かないまま
微笑む右手に持たれる








「一本の煙草(2)」


煙草に火をつけて
それでおしまい

一本の煙草という時間
じゃあそろそろという時間
どちらかを待つまでもなく

膝に押し付けて火を消したら
ぼくごと煙になっちゃった













2007年12月10日(月)
裸でネコの隣りにいると








君が眠っているうちに
パンもすっかり焼きあがって
夕焼けも細長くなりすぎました
その片っ端には釣り竿がむすんである
もう片方にはお魚がくっつけてある

君が眠っているうちに
船は港に帰ってきました
汽笛がそれを教えたとき
おじいさんは手紙を読み終えます
古い手紙と古い椅子、まっ黒な毛並みを撫でながら

君が眠っているうちに
カーニバルは終わってしまいました
みんな家へと帰っていきます
シッポをぴんと立て靴屋さんの軒下へ
厚い肉球で理容室の自動ドアを開けて

君が眠っているうちに
列車は花の駅を出て行きます
みぎにひだりに揺さぶられ
荷台からキャットフードを落っことして
ノラたちの国境を越えました

旅人は列車を降りてから
空や海や草や道にたくさん名前をつけおえて
泥のついたダンボールから一匹抱き上げたところ
子どもたちもかけ寄ってきた
なんて名前をつけたんだろう

君がきっと行くことのない
はるか遠い国にも鳴き声がきこえてる
裸でネコの隣りにいると
頬にヒゲが生えてくるようです











2007年12月03日(月)
近所のふたり









ぼくと彼女との関係はあくまで対等ニャのだ
どちらの心を奪おうともしないし
しくじって奪われたりもしない
そのくせ一応一定の関心は持ち寄って
たがいの周囲をうろつきあう
名前も年齢も知らないどうしのくせに
近所に住んでるんだもの、理由はそのくらいよ
ってなかんじ

彼女が首の鈴と長い爪を鳴らして
ぼくの部屋にやってきたとしても
甘えた声なんて聴かせやしない
勝手に箪笥にもぐったりソファーでくつろいだり
洗濯物に頭を突っ込んだりして
退屈すると帰っていく

近所を歩くたびに彼女の真白い姿を見かけるけれど
こちらを一瞥するだけであとはしゃなりと知らんぷり
ひとはひとりでいると大抵それだけのことで
寂しそうに見えてしまうのに
彼女はただ颯爽としているだけだ
それだけで音楽みたいなんだ

いちどだけ豆煎餅の匂いをさせたまま
家のまえで彼女と出くわしたことがあって
そのときはカラダをすりつけて甘えられてしまったけれど
それは本能だったからしょうがない
よっぽどおなかが空いてたのかもしれないよ
ぼくはガッカリするよりも
なにもなかったことにした
彼女もじぶんをひどく恥じたに違いない
そのあとしばらく姿を見せなかったもの

と、ここまで書いてディスプレイを眺めていたところへ
ひさしぶりに彼女が部屋のなかへ
網戸を勝手にガラガラ空けてはいってきた

-調子はどう?

ん。ぼちぼち。

-今日はニャにを書いてるの?
 あ。隠さなくてもいいわ。興味なんて、ニャいもの。