初日 最新 目次 MAIL HOME「馴れていく」


ごっちゃ箱
双葉ふたば
MAIL
HOME「馴れていく」

My追加

2007年05月31日(木)
音信











年齢だけかさねても
なんとかやってる

それでこの頃は
許せることも多くなった

不良品だと幼いうちから
なじり続けた父親のことも












2007年05月28日(月)
ふたつのお別れ







ついさっき
きみにさよならしたところ
でもお別れをしたわけじゃない
また今度会えるわけでも
まだ話すことがあるわけでもない
お別れをしないやりかたで
さよならしてることもあるさ

交差点のまんなかあたり
信号ひとつ変わったところ
どちらか立ち止まったわけじゃない
また向かい合わせに近づくのでも
別な方向に行ってしまうのでもないよ

まだ出会ってもいなかったのに
そうしていっしょにいたのだし











ぼくはほんと悲しそうに話してみる
きみはおなじように悲しくなって
ほんと可哀想にこたえてくれる
可哀想にこたえてもらえるのは気持ちがいい

ぼくはなにか言うべきことをさがしてる
きみは言うべきことなんかもう探しおわっていて
なにも言わないべきだとおしえてくれる
言わなくちゃいけなくて言わずにすむのは気持ちがいい

ぼくは外を見ながら歌をおもいだしてる
きみはおなじようなおもいだしかたで
そんな歌をきいたことがあると言っている
ふたりともおなじ歌をうたっているのは気持ちがいい

電車を降りて改札を出たら
ふたりとも自動レバーみたいに腕をあげた
腕をあげると自然に微笑むことができる
微笑みあってお別れするのは気持ちがいい










2007年05月21日(月)
おかしなふたり







妻はもうずっと慌しくしている
今夜は夕食がおくれている
旦那は珍しく文句を言わない
自室でじっと待っている

妻はなにも語らない
黙して炊事に没頭する
夕食の完成はまだ先だ
オーブンが回りっぱなしになっている

旦那もなにも語らない
ちらほら様子を見にくるだけで
またすぐ自室に戻っていく
オーブンが気まずそうに回っている

旦那はもう気付いている
自分の誕生日であるということと
妻が自分には内緒で
ケーキを焼いているのだということに

妻ももう気付いている
旦那が自分の内緒ごとに気付いていることと
旦那が様子を見にくるたびに
慌てる自分の立ち位置の不自然さに

旦那は特に語らない
妻も余計にしゃべらない
おかしなふたりの真ん中で
オーブンも気をもみながら秒読みをはじめる

そしてついにオーブンは鳴った
誇らしく高らかに
この長い沈黙の終わりを告げた

妻が焼きあがったケーキを冷蔵庫の隅に
隠し覆せた頃をみはからって
旦那は目を合わさずに台所へやってきた
それから夕食の準備を手伝いはじめた









2007年05月14日(月)
明日のわたくしさま






お茶をかちゃんとこぼして
慌てて拭いて
あらら。そしたらもうアタマが
どうにもつながらなくなっちゃって
今日のわたしはここまでです

ここまでは書いてみたものの
どうにも判断がつかなくなりまして
これはこれでいいのでしょうか
それとも体の良い言葉に
ただ酔わされているだけでしょうか

なにかこうして書いているのは
夜、というのが多くなってしまうのですが
周りが静かであるためか
それよりも気分の高揚のせいか
書こうとすればするほど
私は酔っ払っていくように
思われます
酔っ払いはいつも
酔ってないと言うものですしね

故にどうぞ
また明日にでも
冷徹に上から下まで
あらためて読みそして
読む、という事に耐えられるのか

いまの私のかわりに
ご判断ねがいます

何卒宜しく









2007年05月07日(月)
残業帰りのコミック










オートロックをこじ開けない
鍵をつかう灯りをつける

タクシーが環状線に戻っていく
銃口を向けず領収書をもらう

屋上に階段なんかで上がらない
夜景を見渡せるだけの高さがない

鞄をおろすネクタイをかける
ビールがあって女がない

朝になれば郵便受けに
放り投げたソックスと
お釣りでも返ってきそうな夜

冷凍ピラフはレンジのなかで
ボルサリーノでキメている