初日 最新 目次 MAIL HOME「馴れていく」


ごっちゃ箱
双葉ふたば
MAIL
HOME「馴れていく」

My追加

2005年12月26日(月)
ことわる






御用立て願います

目があった途端
彼女は僕にそう言った
お願いします、ともう一度

すいません
僕も持ってないんです

財布を見せてもよかったけど
ホントになかったこともあり
そうはっきり答えると

立ち止まった僕から
彼女はすぐに目線をそらして
後ろからやって来るひとに
おなじことを繰り返すのだった

御用立て
願います

冬が急いで深まっていく
新宿の地下通路は
誰もが足早に見えてくる

僕もそれに混じり
プラットホームへ
足早に足早に急いだ









2005年12月19日(月)
うたをあなたに






マフラーを首に
かけなおしてばかりの帰り道で

まるで空から落ちてくるように
歌ができました

ちゃっちゃらーちゃっちゃらー
ちゃっちゃらんらんちゃん ぽんぽんぽん

かし〜てないけ〜ど
か〜ね〜か〜え〜せ〜

じゃんっ




…良いっ 素晴らしいっ
かんどーしたっ



2005年12月12日(月)
いまから帰ります






半額になる午後8時
右手にビニール袋の跡も赤く

アパートの裏のお家の窓に
猫が座ってこっちを見ている

川面にいくつも
月がうつっている

そのみぎうえに星が
もうひとつ光っている










2005年12月05日(月)
「飛沫」








「 ある雨の朝のこと
 少年が傘をさして
 立っていた
 
 おつかいの帰り道かな
 信号のない
 道端で
 立っていた

 笑顔で片手を高く上げて
 雨の中で 飛沫を浴びて
 立っていた

 何故 停まってあげなかったんだろう?


                さだまさし 「飛沫」
                アルバム 「日本架空説」 から





朝の新宿駅西口で
小学生くらいの
ブレザーを着た男の子が

並んでいた僕の前に
小さな体で強引に入り込み
スタスタと改札を抜けていった

僕はその小さな背中を
ぼんやり見送ったときに
「だれか」の舌打ちが聞こえた気がしたのだ

遅刻したら先生に叱られるのかもしれない
もしかしたら友達を待たせてるのかもしれない

だとしてもあんな小さな子が
一分や、二分間
だれかを押しのけてまで先を急ぐ

どこでいつそんなことを
覚えていってしまうのだろうか

決まってる、
その子が他のだれか大人に
押しのけられたときなのだ