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JIROの独断的日記
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2004年09月13日(月) 人にものを教えるのは専門的技術である、ということがよく分かるお話。

◆ネイティブ・スピーカーが皆、良い語学教師になれないことを示す逸話。

 

大袈裟に言えば、日本の歴史の中で、専門的な会議同時通訳者でありながら、「アイドル」に限りなく近い扱いを受けた人物が一人だけ、存在する。

 鳥飼玖美子さんという、今は立教の教授である。略歴を記すと、



1969年上智大学外国語学部卒業、コロンビア大学大学院修士課程修了。

国際会議同時通訳者、東洋英和女学院大学等を経て1997年より本学(立教大学)勤務。

NHKテレビ「英会話」講師、日本ユネスコ国内委員会委員。日本コンベンションビューロー会長。

となっている。なんと、まだ、大学生の時に、アポロの同時通訳陣の一人に選ばれた。上智大学外国語学部卒となっているが、これは、スペイン語である。大学にはいるまでに、帰国子女でもないのに、日英のバイリンガルになっていたのだ。鳥飼さんが最も英語力を伸ばしたのは、高校の時にAFS(American Field Service)という純粋な非営利のボランティア団体に寄って運営されている留学制度で、1年間アメリカのごく普通の家庭にホームステイしたときだという。


◆泣かせる話が・・・「こんにちわ.鳥飼玖美子です」(昭和47年ジャパンタイムズ)という本に載っている。

この本は当然、絶版で、インターネットの古本屋、日本の古本屋でやっと見つけた(因みに、このサイトで本を探すにはまず、会員登録をしなければならない)。


 

私は中学生の頃、この本を読んだ時、鳥飼さんがホームステイしたアメリカ人の家庭の善意に心底感動した。

AFSでホームステイしたら、完全にその家族の一員となったものとして扱われる。客人ではない、ということだ。

だから、アメリカ人のお父さんお母さんをDaddy,Momと呼び、兄弟姉妹は当然、ファーストネームで呼ぶ。

いろいろと楽しいエピソードに溢れているが、中でも、泣かせるのが、「電話のクリスマス・プレゼント」という一章である。

クリスマス・イブを楽しくすごして、クリスマスの朝になると当然、親から子供にプレゼントが用意されている。

鳥飼さんにも、品物のプレゼントがあったが、それ以外にもうひとつ、アメリカ人のお母さんから一枚のカードが手渡された。



「これは、電話のプレゼントです。クミコはアメリカでとても楽しく過ごしているけれども、日本のお父様、お母様は、きっと貴女の声が聴きたいことでしょう。さあ、これから、日本に電話して、好きなだけ、ご両親とのおしゃべりを楽しんで下さい」・・・。

 

当時の国際電話料金が、今とは比べものにならぬほど高額であったことを考えれば、大変贅沢なプレゼント、いや、カネの問題ではない。人間の善意の美しさである。アメリカ人にもこんなにいい人がいるのだ。(いたのだ、と言いたくなるところが、残念だ)。


◆それでも、英語を教えるのはプロでなくてはならなかった。

 

ホームステイ中に大統領選があって、家族と一緒に鳥飼さんは政治を論じていた(すごいでしょう?高校生の女の子だよ)。

アメリカの2大政党のうち民主党はDemocratで、最初にアクセントがある。ところが鳥飼さんは勘違いしていて、デモクラットの「モ」にアクセントをつけて会話をしていた。

家族がにやにやしている。様子がおかしいことに気がついた鳥飼さんが理由を聞くと、「いや、クミコがアクセントを間違えていうのが、何だか可愛くてね・・・」

 鳥飼さんは、ムッとした。「ひどい!みんな、いつも、私の英語をそうやって間違いのまま、おもしろがっていたのね!?」

 家族は慌ててしまった。「ごめんごめん、そういうつもりではなかったんだ。これからは、ちゃんと、発音の間違いが有ったら、指摘するようにするよ」

 ところが、今度はえらいことになった。鳥飼さんは当然クリアしていると思っていた、ごく簡単な発音をいちいち直される。中でも、困ったのが、"didn't"だった。何度試しても、アメリカ人の家族は違うという。しかし、どのように違うのかは指摘できない。


◆破裂音の鼻音化

 

タネをあかすとdidn'tというときの2番目の"d"は舌を歯茎から放さない。

「ディンント」とでも書こうか。カタカナでは表現できない。

wouldn't,shouldn't,couldn't,或いはwriteの過去分詞、written, フレーズなら、"Good morning."という時の"d"の"m"の間で"d"は鼻に抜けるように発音する。

これを音声学では、「破裂音の鼻音化」"nasal plosion"という。

後にプロの同時通訳者となり、抜群の発音の良さを誇った鳥飼さんでさえ、自力ではその法則を発見できず、ネイティブだが、外国人に英語を教えるのを職業としていない、ホームステイ先の家族もどのように矯正してよいのかわからなかった。

 結局、鳥飼さんは学校の先生に尋ねて、問題の所在を知るのだが、これは、外国人が英語を学ぶときに陥りやすい発音上の難点とその克服の仕方を知らなければ教えることができないわけである。


◆基礎はちゃんとしたプロに習え

 

長い話となったが、要するに、伝説的天才的通訳者の鳥飼玖美子さんですら、英語学習の比較的早い段階では、プロの指導者による訓練を必要としたということである。

 人に知識や、技術を教えることは、やはり、それ自体偉大な技術なのだ。


2003年09月13日(土) 最近の若い人って「ローマの休日」を見たことがないの? 「品」が良い、ということ

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