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JIROの独断的日記
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2002年11月10日(日) 「ボレロ」のトロンボーン 芸術の厳しさ

フランスの作曲家、ラベルの代表作の一つに「ボレロ」がある。
この曲は極めてユニークだ。小太鼓が二つの小節から成るリズムを全曲を通して刻み続け、全ての木管楽器と金管楽器が2つのメロディーを交互に何度も繰り返す。曲の始めはピアニッシモだが、次第に盛り上がり、最後は全オーケストラのフォルティッシモでおわる。 数あるクラシック音楽の名曲の中でも、特異な存在だ。

 管楽器のソリストは皆、大変緊張するが、中でも難しいので有名なのはトロンボーン・ソロである。

 曲が始まって10分近くも全く音を出さずにいて、いきなり最高音域のBフラットを、メゾ・ピアノで、満場の注目を浴びながら正確に発しなければならない。これぐらい難しい条件では、如何なる名人も100%成功するとは限らない。世界で一番上手いオーケストラの一つ、ベルリンフィルでさえ、以前、日本公演でボレロを演奏したとき、トロンボーンの最初の音が見事にひっくり返った。
 
 こういう曲を聴く時は、聴く側も大変緊張する。私はいつも、ボレロのトロンボーン・ソロが近づく度に、心臓がドキドキする。皆、同じである。それだけに、「ボレロ」の名演は聴衆と、演奏者をも熱狂させる。

 極限状態で、なおも完璧を目指さねばならないのが、演奏芸術というものである。その道は、誠に厳しい。

 日本のテレビで、よく、「NG集」という番組が組まれる。ドラマの収録最中に台詞をトチっても、VTRだから、撮り直せば良い。失敗した俳優は多くの場合、ヘラヘラ笑っている。まあ、テレビドラマには、初めから高い芸術性を期待してはいない。NG集も座興としては面白かろう。しかし、時折、ああいうのを見ると、「ボレロ」のトロンボーン奏者の研鑚と集中力、本番に挑む覚悟、を教えてやりたくなる。


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