再生するタワゴトver.5
りばいぶ



 エーシーオー沖縄『亀岩奇談』演出の戯言

演出の戯言「一歩を踏み出してみる」

又吉作品を舞台に。その命を受け、どっぷりと又吉栄喜さんの小説群に触れながら、あれも面白い、これも興味深い、でも舞台には…と右往左往、立往生を繰り返しているうち、この『亀岩奇談』に行き着いた。

ご本人がどう思われるかは別として、作品の後説などを頼りにすれば、又吉さんの作品は主に三つの特徴で分類されるようだ。

1・沖縄の伝統文化や生き方を新しい視点で織りなす作品群(『豚の報い』など)

2・沖縄戦の悲惨さや記憶の継承のあり方を課題にする作品群(『ギンネム屋敷』など)

3・米軍基地があるが故に基地被害や米兵との愛憎を描いた作品群(『ジョージが射殺した猪』など)

いずれも名作揃いだが、この『亀岩奇談』はまた少し毛色のちがう寓話である。

正に「今」が切り取られ、現在の問題にきり込みながらも、なにより主人公である和真を中心に描かれる人間が魅力的で、その世界が底抜けに明るいのだ。一歩踏み込んで舞台化したい、とお願いした。

舞台化にあたって、脚本を『与那覇家の食卓』『クテーラン人びと』の伊波雅子さんにお願いした。アイディア出しをしながら、栄喜さんが描いた世界に雅子さんならではの味付けが加わるのを楽しみ、その脚本を元にさらに一歩踏み込んで、演者さんたちとあーでもないこーでもないと人物を調理陳列し、舞台ならではのめくるめく世界へと昇華する。

数年前に踏み出した一歩が、いつのまにかエーシーオーの作品制作において、東京から旧知の俳優さんたちと沖縄に来て、作品に出会い、現地の皆さんと出会い、新しい化学反応を生んで物語を紡ぐ──のではなく、旧知の沖縄チーム(拙作に欠かせない『島口説』のお二人、『洞窟』以来の当銘さん、『オキナワでゴドーを待ちながら』のラッキーこと平良進さん)で、東京から新たに送り込まれてくる刺客(今回は罍陽子さんと松浦慎太郎さん)との化学反応を楽しむ贅沢な状況になっている。更に今回はいつものスタッフ陣に加え、チラシを描いてくれている伊波二郎さんにも参加願って、まさにチャンプルー状態である。

「一歩踏み出た」皆で、同じことを繰り返しがちなボクたちが大切にしなくてはいけないもの、忘れてはいけないものはなんぞやと賑やかに、又吉作品の奥行き追求真っ最中である。

本日はご来場くださいましてありがとうございます。

引きこもりがちな和真が踏み出す一歩とその旅を、どうぞ最後までごゆっくりお楽しみください。

藤井 ごう

2023年12月29日(金)
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