「そんな、甘い関係じゃねぇだろうが」 視線をそらしながらそう吐き捨て、亜久津は瞼を伏せた。 千石は少し眉を釣り上げたが、それを隠そうともせずにただ静かに問い返した。 それは別に亜久津が瞼を閉じているからじゃなく、ただそうしないと気が緩み、ヒステリックに声を張り上げてすがりつく未練がましい女のような行動をとりそうな気がしたからだった。 「じゃあ、どんな関係なのさ」 微かに亜久津の体が震えた。 「……あくつ」 名前を呼ばれた彼は黙ってただ目を開くと千石の事を睨んだ。 痛いとも手を離せとも言わずにただ千石をまっすぐに睨み付けるその目は、はっと息をのみたくなるぐらい奇麗だった。奇妙なぐらいに澄んでいて、その中にゆらゆらと形を変えながら炎が燻っている。そういう目。亜久津の目は出会った時から奇麗な、獣の目をしていた。 他者への敵意を感じるだけの、簡潔すぎていっそ美しいと思うようなこの目が、千石は好きだった。 ただじっと動かぬ視線を捉え、お互いに黙ったままその姿を見る。千石のワイシャツに染み付いた血は、乾きはじめると同時に彩度を失い始めていたし、亜久津の両手の指先と爪の間には血がこびり着いたまま。そのうえ顔には痣もできていたし、口の中も血の味がしていた。千石も口の中を切ったが、彼はそれだけ。青痣は口元の小さな腫れ程度だ。 それにしたってまったく、お互いに酷い様だ。 しかもその原因を考えれば滑稽さだけが増すばかり。 嗚呼全く馬鹿馬鹿しいのにも程が有る。それはお互いわかっている。 -- 没りそう
|