ひどく聞き慣れた話題だ。 別にあの人の事は嫌いではないし、一生懸命話す太一がなんだか可愛いと思うし、そんな風に一生懸命にさせるあの人自身にも感心するし。 別にその話題をしてほしくないわけじゃない。 そういうわけじゃない。 口が滑った。 「太一は、随分と嬉しそうに話すよね」 その一言に、彼がひどく驚いた表情を浮かべるのをみてそれに気付いた。けれど訂正するのもおかしく思えて、開きかけた口を閉じた。 「え、と……ご、ごめんなさいです……いや、でしたか?」 立ち止り困った顔で聞いてくる彼に、そんな困ったような顔をしないでよ、とつられるように困った顔で足を止めて。 「違うよ。ただ、ほんとに嬉しそうだと思っただけ」 「その……でも……亜久津先輩は、なんていうか、その、僕の憧れっていうか…あの…」 「あぁ、そんな深く考えないで。別にそんな風に思ってないから」 「でも!ごめんなさいです!室町先輩の前で…亜久津先輩の話ばっかり…!」 責める気なんてないのに、ぺこりと頭を下げる太一を見て自己嫌悪にかられた。 ああもう、まったく。 (これは、どうしようもないぐらい微かな嫉妬だ) 「いや、いいんだよ」 笑って、その頭を軽くなでて。 少し、慰めるような声音で。 「これは、俺のちょっとしたヤキモチだから」 (そしてこの言葉は自分への戒めでもあり、彼に対する慰めだ) 「なにも悪くないんだから、そんな顔しないで」 「…ごめんなさい」 「いいんだってば」 「……室町先輩…」 「困らせてごめんね。まぁたしかに、ちょっと妬けるけど」 言葉をきり、サングラス越しでもわかる程度に小さく笑って。 「俺は両思いだって思ってるから、それで十分だと思うんだよ」 (けれどやはり、彼の思考に強く存在するあの人を羨ましく思う事実は拭いきれる事などない。) どうしようもない事実を認めて、太一に気付かれないように小さく息を吐いた。 俺の言葉に太一は、顔を真っ赤にしたかと思うと下を向き、謝罪の言葉とまったく同じ調子で「ありがとうございます」と小さく答えた。 終る。 -- 室壇どころか小説というのすらおこがましい感じで……。 ご………ごめんなさい安田さん…!
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