「黙ってないでさ、バカでも気狂いとでもなんとでも言えばいいじゃない、亜久津らしくもない」 「…ンな事……自覚してる人間に言ってどうする」 「自覚?してないよそんな事。俺、気は狂ってるつもりなんかさらさらないよ?」 「嘘吐け」 「嘘じゃない、ほんとだよ」 「……お前の『本当』は……」 亜久津が目をふせて「嘘ばっかりだ」と言えば、千石は笑った。 その笑顔がまた疎ましく、亜久津の神経を逆なでするという事をきっと千石は知っているのだと亜久津は思っている。 「信用ないのね、オレ」 「は、テメェを信用できるようになったら世界の終わりだな」 「…ひどいなぁ……じゃあやっぱりオレはこんなに亜久津の事を思っても、嘘だっていうんだ?」 「嘘以外の何だって?」 「……ほんとの事だよ」 「……そりゃよかったな」 「本気にしてよ」 「できねぇよ」 「嘘じゃないから」 「嘘だろ」 「嘘じゃない」 「しつけーぞ、千石」 「嘘じゃないよ、亜久津」 千石は真剣な顔つきで亜久津をじっと見て「嘘じゃない」と何度も何度も繰り返す。 その「嘘だ」「嘘じゃない」の繰り返しを何回かした頃になって、亜久津がつられて「嘘じゃない」と言った。 亜久津が気づいて口を手で覆うよりも早く、千石はニヤリと笑って嬉しそうに亜久津を軽く抱きしめた。 「ほら、嘘じゃない」 そして耳もとでまたクスクスと笑う。 やられた、と舌打ちをすれば、耳もとにキスをされて、なんだかそこから一気に熱が広がっていくような感覚に、亜久津は強く目を瞑った。 まったく千石は、食えない男だ。 -- さっぱり関係ないんですけど、野島伸二氏(漢字うろ覚え/死)が脚本書いたドラマって気づけば私大抵好きなんだよなぁ…。
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