舞い落ちてくる枯れ葉を、ぼんやりと視界のはしに捕らえながら、乾いた音をたてて足下に積る落ち葉を千石は踏んだ。 「あくつ」 少し先を歩く亜久津を、呼び止める。 水蒸気を含んだ吐く息は、白い。 亜久津は何も言わずに振り返って、訝しげな顔をした。 「なんだよ」 「…寒いね」 「まだ秋だ」 「もう冬だよ」 「つーか…お前は厚着しすぎだ、今からそれで冬どうすんだよ」 「んー…もっとあったかい格好するんだよ」 フン、と鼻を鳴らしてから「毛皮とか?」と亜久津が言うと、千石は「そう、亜久津とお揃いでそろえようか」とクスリと笑った。 ひらりひらりと舞い落ちて行く枯れた葉たち。 空を仰げば、ひらり、ひらりと、ゆっくりと。降るように。 秋の寒空にはっきりとした輪郭をみせて。 「…………ねー…」 「ぁあ?」 「どっか旅行行かない?」 「旅行?」 「そう、2人でどこかへ」 「…………どこへ」 「どこへでも!…愛の逃避行、みたいな感じで」 ばっ、と両手を広げ、くるりと半回転して亜久津の封を向き直って「どうよ」、と千石は笑った。 枯れ葉はまだまばらに降っている。 それも気にせずに降り積もっている枯れ葉を踏み分ける度に聞こえる乾いた音と、お互いの声、そして隣の道路の車が走りさる音だけが聞こえない銀杏並木を進む。 「ねぇ、行かない?俺と2人でどっかへ。」 「何もかも捨てて?」 何かの台詞を読むように亜久津は、「は」と嘲笑うように笑って。 「そう、家族も社会も何もかも、捨てて…信じられるのがお互いだけ。大事なのも。」 にっこりと、幸せそうな笑顔のまま、千石は立ち止まった。 亜久津は止まらずに問い返した。 「…………行きてェのかよ」 「………どう思う?」 聞かれた千石は、逆に少し戯けたようなそぶりで、亜久津に問いかけたが、亜久津は「さぁな」、と返して千石を見た。 「お前はどうか、って。聞いてんの」 その目は真直ぐに千石を射抜くように見ている。 「……亜久津が行きたくないなら、強制はしないよ」 千石は困ったような表情を浮かべて、距離を置いていた亜久津に追い付く。 「まぁ、今はこうして2人であてなく歩けるってだけでも十分、かな」 風が吹いて落ち葉が舞うのと同時に、亜久津はふ、っと小さく笑みを浮かべた。 同時に、すぐ側の横断歩道が青になり、まばらに通行人が増えてくる。 「……らしくねぇんじゃねーの?」 「そう?でも本音だよー?」 「は、いつもはもっと厚かましい癖に」 「亜久津にいわれたかないね」 その言葉に、亜久津は足を止めた。 同じように千石も足をとめ、2人して顔を向かい合わせる。 「どういう意味だ」 「そういう意味さ」 しばらくそのままにらめっこのような状態を続けたかと思うと、急に千石はプッ、と吹き出した。そしてそのまま腹を抱えて笑いはじめる。 「またスイッチ入ったのかよ……」 「あっはははは…だ・だって…!」 笑いすぎたのか、千石は少し涙目になっている。 通行人は、亜久津達を何事かと盗み見ながらも、そそくさと足早に通り過ぎていく。 亜久津はあきれ顔で溜め息をついた。 「……さっさと帰んぞ、コラ」 「…はは、えー…もう帰るの?」 「帰る」 「じゃあ俺今日はお前ンち泊まるからよろしくーv」 「は?マジ帰れ」 「やーだよーっだ、さーそんじゃあ地下鉄で帰りましょー」 千石はぐいぐいと腕を引っ張って行く。亜久津はしょうがない、とでも言いたそうな顔をしてそのままついていく事にした。 人目は少し痛いが、人込みではないだけマシだ。 自分に言い聞かせや言い訳でも言うように、亜久津はそう思った。 そのままゆっくりと、足下の落ち葉を踏み締めながら。 -- タイトルから作ったらなんかアレになったので…没…。 このタイトル使いたかったんですけどねー。 少しずつ、徐々に、ゆっくりと、って意味。 ゴクアクの亜久津っぽいかなぁ、とか思って。
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