『人は感情で動くもの。理屈に縛られてはいけない』 どこかで、聞いた言葉。何かの本で読んだのかもしれない。 そんな事をぼんやりと考えながら、南は電車に乗り込んだ。病院へ寄ってから学校に行ったせいで、通勤ラッシュから数時間ずれたおかげで、電車は混んでも空いてもいなかった。 とりあえず、あと二駅だし、と座らない事にした。そのまま鞄から文庫本を出しながら、乗車口のそばに寄り掛かった時。 「あ」 思わず、声が出た。 ふと視線がいった向側の、ホームのベンチに。 自分とおなじ、あの特徴的な制服姿の千石と、亜久津が、いた。 「………ちょっとまて、今何時だよ…!」 ホームの時計を見れば、時計は11時半過ぎを指している。2人揃ってサボりのようだ。 「……何してんだ…あいつら…」 千石はいつもどおり楽しそうに亜久津に話し掛け、亜久津はほとんど無視しているように見える。しかし時たま面倒臭そうに千石に視線をむけたり、二、三言、何事か言葉を返している。 ふ、と千石が満面の笑みを浮かべて下を向いた時。 亜久津の、唇の端が微かに、だが確かにゆがめられたのが、見えた。 その、顔はひどく、 ひどく優しい笑顔で。 南は驚いて目を見開いた。千石はきづいていないように見える。 しかしすぐにその笑顔は消えて、亜久津は何事か呟いたように見えた。 駅のアナウンスがながれ、乗車口が閉まる。 だが南の視線は向い側のホームの2人にとめられたまま。 そのまま電車がはしりだしていく。 動いて行く、視界。 遠くなる、姿。 ガタン、ゴトン、と電車はゆっくりと走り出した。 だがそこから離れるのは安易で、すぐの事だった。 南は首をふるように下をむく。 あの、表情が。 目に焼き付いて。 あの、千石にだけ、むけられたのであろう、あの、ひどくやさしい笑顔が。 自分には決して向けられる事がないだろう、あの、笑顔が。 一瞬に満たない瞬間を目撃出来たのは、なんだか得をしたような気もしたが、心が、痛んだような気がした。 南は、結局自分は理屈にしばられてしまうのだなぁ、と思いながら、ぼんやりと外にむけていた目をとじた。 -- なんであたしのナンアクってゴクアク前提ばっかなのか。 それはやっぱりゴクアクが一番好きで、三角関係ってものが好き、ってのが災わいしているのか。 いつもいつも申し訳ない。 -- サスペリアが見たい。あたしあれ見た事ないんすよ…どうなん?
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