没ったからのせる。うーー… *20020831 -- それは真夜中の出来事だった。 「亜久津、回転寿司食べに行こう。」 もう深夜二時を過ぎたところで携帯に着信が入り、亜久津は起こされた。そして携帯を見れば新着メールが一件。本文は『今、玄関前。』、とたった一言。亜久津は眉間に皺を寄せて起き上がり、ベッドから降りて玄関へと行き、扉を開けた。開けた途端冷たい空気が入り込んできて、亜久津は肌寒く感じた。そしてそこに立っていたのは制服姿の千石。 「…真夜中に人の家に来たとおもったら開口一番『回転寿司を食べに行こう』だぁ?ふざけんのも大概にしろ、バカ、死ね。」 「えーしょうがないじゃん、どうにか合宿切り上げさせてもらって家にも帰らずに速攻で大好きな亜久津のために亜久津の家に来たんだよ?そりゃ夜中だよ。つうかさ、親の顔もまだ見てないのに、わざわざタクシーで亜久津の家まできたんだよ?」 「誰も頼んでねぇよ、つうか迷惑だから帰れ、金持ちめ」 「えーやだよー回転寿司食べようよー!なにさー自分だって金持ちのくせにー!」 「……大体なんで回転寿司なんだよ…わけわかんねぇし」 「や、合宿中に食べたくなったんだよ」 「…大体やってんのか?今何時だと思ってんだバカ、深夜二時。深夜二時にやってる寿司屋なんかねぇだろ」 「…………絶対?」 「は?」 「絶対ない?誓える?もしもあったら何かしてくれる?」 「………あーはいはいはいはい、……わかった、行く。ちょっとまってろ、財布持ってくるから」 「うん、…あ、ごめん、ちょっと荷物置かせて欲しい…と言うかなんというか…」 「…お前泊まる気か?」 「うん、家には連絡済み」 千石の締まりのない笑みを見て亜久津は軽く舌打ちをしたが、すぐに千石に背を向けて手で来いと合図をした。千石は靴を脱いでその後に続いた。 真夜中の冷えた空気の中、千石は亜久津を後ろにのせてゆっくりと自転車を漕ぐ。亜久津は千石にしがみつく事無く、自転車に手をひっかけるようにおいている。 てっきり亜久津は自分に抱きついたりしながら乗ってくれるのかと思っていた千石は、内心がっかりしていたが、それでも自分の漕ぐ自転車に亜久津を乗せているだけでもいいか、と思いながら2人分の重さをもろともせずに足を動かす。最初はもしかしたら少し重いのでは、と千石も思ったが、思うよりも亜久津が軽かったので余計な心配だった。 楽しそうに歌を歌いながら千石は自転車を漕いでいる。暇に耐えかねて亜久津が煙草を吸い始めたので、紫煙が2人の後にかすかに残っていく。 「つーきのーさばくをー♪」 「…お前さっきからなに上機嫌で歌ってんの」 「んー月が綺麗だからさ、歌いたくなっちゃって。」 「…あー…」 言われてみれば、月が綺麗に出ていると思って亜久津は月を見上げた。 雲一つない、しかし都会だからか周りには一つも星が見えやしなかった。 しばらくして亜久津達は回転寿司の看板がついた建物に着いた。 「はい、到着ー♪」 「…………ホントにやってるし…」 「だから言ったじゃんかー朝方までやってるんだよ、ほら行こ。」 すこし驚いたように店を眺める亜久津の腕を、千石はぐいぐい引っ張っていく。 自動ドアが開くと、店員が出てきた。中は思ったよりも広く、まばらだが、人もいた。 「いらっしゃいませ、お客様何名様ですか?」 「あ、二名です」 「ではこちらへどうぞ」 店員に案内されるままに、2人は席へとついた。 「亜久津って寿司何好きなの?」 「………鮪」 「まぐろ?俺てっきり海胆とか言うかと思ったヨ」 「別に、…海胆も嫌いじゃねぇケド…」 「ふーん…あ、来た来たv」 千石は嬉しそうに流れてくる皿を取り、寿司を醤油につけ、亜久津に差し出す。 「はい、あーんv」 「な…誰がンな事…てめぇで食えよ!」 「何照れてんの、別にいいじゃんかー…誰も見てないって!」 「そういう問題じゃねぇよ!バカ!」 亜久津はそう言って千石をキッと睨み付けると、千石は残念そうにうなだれながら寿司を口に運んだ。 「…あーあー…残念、なんの為に来たんだか…」 「そんな事の為に俺を叩き起こしたのか…?」 「イヤイヤ、それとこれとは別だよ。」 千石は真面目な顔で亜久津に向き直った。滅多に見ない顔に、亜久津はほんのすこし後ろに退いた。 「ただ亜久津に会いたくてしょうがなくなったから、合宿も切り上げてきたんだよ。」 「……………バッカじゃねぇの…」 「んー?…ぁー言って良かったなァ…亜久津、そんな顔してくれるなんてさv」 「どんな顔だよ!」 「そんな顔、」 ずい、と亜久津の傍に近付く。亜久津の心音は高まるばかりで、千石の心理はわからなくなる一方だ。 「そんな顔してるとキスしちゃうよ」 「……ッ帰る!」 「えー全然食べてないじゃん」 「いらねぇ」 「……じゃあファミレスね、ファミレス」 「は?誰がンな事いったよ!俺は帰るんだよ」 「何言ってんの、サービスサービス!ホラッ!」 「…………あーもーわかった、わかったから騒ぐな……」 -- うー…こんなのでも勿体ねぇなぁとか思っちゃうよ…貧乏性。
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