雨音が激しくなってきた。雷の音も酷く響く。そしてその雷の音に間髪入れずに走る光の筋がまぶしい。 雨の日は好きだ。 …そういえば彼は雨の日を忌々しく思うと言っていた。 音も、匂いも、目に見えるその光景も、全てが忌々しいと彼は言った。 こんなにも、こんなにも、自分にとっては心地よくても彼にとっては心地悪い物なのだ。 大きな雷の音が体に響く。まるで打ち上げ花火をすぐ隣で打ち上げているような、いや、言い過ぎた、そこまでではないが、まぁ、そんな感じ。 響く響く響く音。 ギクリ、としないと言ったら嘘になる。だがそれすらも楽しく思えるのだ。 雷も音も匂いも雨も全部。 だから雨の日は嫌いになれない。 「あ」 千石が雨宿りを兼ねて入った喫茶店の窓の外をぼんやりと眺めていると、視界に見なれた姿が見えた。二階から見える景色だが、何故かその姿だけはとても鮮明に見えた。 どうやらずいぶんとそのまま雨に打たれてきたらしく、ずぶ濡れで歩くその白い姿。いつも立てている髪の毛はもうすっかり落ちている。 だが何よりも気になったのは、そのはっきりとしない足取り。 そして彼は足を絡ませたように、近くの電信柱に軽く寄り掛かり、そのまま、その場にうずくまった。 どうしてもその姿から目が離せなくて、千石は代金を飲みかけのコーヒーソーサーの下に置いて慌てて店を出た。 店を出てすぐに、雷はもちろんだが、バシャバシャという雨音が煩い、と思った。 だがそのまますぐ下の電信柱にうずくまる彼に千石は駆け寄った。水たまりの水が跳ねて白い制服を汚すのも気にせず、水が靴下にしみる気がしたのも無視し、もうつい先程まで煩く感じた雨音も耳に入らなくなった。 「亜久津?!」 出た言葉は疑問系だったが、彼が誰なのか、は確固たる自信があった。 自分が彼を間違える事なんてありえない、と思ったからだ。 「……………ぁあ?……………千石、か」 亜久津の体を自分の方に引き寄せると、亜久津は閉じていた目をうっすらと開いた。 千石はいつもよりも暖かく感じる亜久津の体を軽く抱き締めて言う。 「うん、ね、どした…」 千石は言いかけ、しかし言葉を失なった。 彼の背中に回した自分の手に、ドロリとした赤い液体がべっとりとついているのに気づいたからだ。そしてちゃんと見れば、それは千石と同じ、彼の白い制服の腰のあたりを赤く染めていた。そしてそれはポタポタと雨が降り注ぐ道路に雨のように、雨と混じり零れ落ちている。その流れを目で追えば、それが雨で薄まって排水溝へと流れていくのが見えた。なんだか全てがスローモーションに見え、また、全ての音が消えた。 亜久津の、赤い、赤い、真っ赤な血液が彼の体から抜けていくように、彼は元から少ししかない赤みを失い一段と青白くなっていく。 「………………………………な…あく、つ…?」 千石に嫌な予感が走った。 亜久津はずいぶんと雨に打たれていたようだし、雨の中で怪我をしたにしては血が制服の繊維に染み込み過ぎている。 つまり、これは雨の中では無く、雨が降り始める前か、雨が降っている中を逃げるように、傷を負いながらも歩いてきた可能性が高い。 「……何が、あった訳……?」 千石の問いかけに返事がない。体もぴくりとも動かない。反応が、消えた。 「…………亜久津…?」 それに気づいた瞬間、聞こえなかった周りの音がいっきに耳にながれこんできた。 「 」 耳もとで、亜久津が何かいったような気がしたが、雨音が煩くて声が聞こえない。ノイズがかかったかのように何かのフィルターでもかけられたかのように聞こえない、声。 千石はどうにかその言葉を聞こうとして彼の口元に耳を寄せたが、その途端、彼の体がずしりと重くなった。完全に亜久津の体の力が抜けたのだ。 「………………聞こえない、よ、亜久津…ッ!!」 千石は悲鳴のような声をあげた。 +++ 最初から一時間後ぐらいに書き足しましタ。 ちなみにこの後病院の話に続きます。(それはまた後日ココに書きますヨ) シリーズみたいにここで書いて、後で加筆して繋げてみようかと思ったりそのまま放置しようと思ったり。 そのまま放置かなー…つなげにくそう。
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