短いのはお好き? DiaryINDEX|past|will
あの男の声が未だに頭のなかで木霊しつづけている。 「あなたには本当の自分と対峙する勇気がありますか?」 そう言われたぼくは、たぶん泣き笑いみたいなおかしな表情をしていたにちがいない。自分でもそれがよくわかった。 普段ならば滅多に感情を表にだすことなどなかったが、このときばかりはちがった。 勇気を奮ったところで鏡のなかの自分と対峙することなど、到底出来そうにないことはわかっている。 正視できるはずもないからだ。 それでも怖いもの見たさ? で、鏡のなかの自分を上目遣いでチラリと盗み見てみる。 案の定、そいつは、セーラー服を着ていた。それにプリーツのミニスカ。薄化粧。でも、口紅は唇から無残にはみ出し、いぎたなく滲んでいた。 本当にこれが自分なのだろうか。 すると、あまりにもオゾマシイ映像が金属的な音をたてながら、脳裏にフラッシュバックした。 あまりの惨めさに鏡のなかの自分に唾を吐きかけた。 不意に大きな鏡を粉々に叩き割りたい衝動にかられる。 周りを見回してみても叩きつけられそうなものは何もなかった。 やがて、ごく自然に頭を鏡に打ちつけはじめる。 意味もなく涙が頬を伝い降りてゆく。鏡が先に割れるか、額が先に割れるか、どっちに賭けようか…。 頭を打ち付ける鈍い音だけが、がらんとしたパウダールームに響いていた。
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