短いのはお好き? DiaryINDEX|past|will
強い風が吹いた。あっと思う間もなく、フレッテの純白のシーツが風を孕んで、再び屋上から小旅行に出かけてしまった。 前回、純白のシーツは旅のお土産として、象牙色したカードと共にささやかな幸せをぼくにもたらしてくれた。 それはむろん自分宛のカードではなかったけれども、そこに書かれてあった清々しい言葉が、文字通り清らかな気持ちを呼び覚ましてくれたのだった。 さて、きょうはどんな物が純白のシーツにくるまれているんだろう。ぼくはわくわくしながら、階段をかけおりた。 フレッテのシーツは、アパートの前のバス道路を軽々と渡って、児童公園の遊具で遊んでいたようだ。 真っ赤なタコの滑り台にちょうど鉢巻きするみたいにして、シーツはタコの頭の部分に絡まりついていた。 風でハタハタとシーツははためくのだけれど、五月の直射日光を浴びて、まるでコーティングの剥げた古いレンズで撮った写真のように美しいフレアを放ち、はためく度に声をあげて笑っているように見えた。 ぼくは、期待で胸をいっぱいにして、巨大なタコの滑り台に近付いていく。タコのお腹あたりには大人でもかがめば通れるくらいの、トンネルがのぞいて見えた。 タコの背の階段をあがりながら、こんなことで胸をときめかせている自分が不思議でならなかった。まるで、ずっと待ちわびていた恋人との逢瀬が刻一刻と迫っているかのような、この胸の高鳴りはなんなのだろう。 いったいぼくは、なにをこんなに期待しているんだろう、馬鹿みたいだと思いながらも手を伸ばしてシーツの先端を掴んでそろりそろりと引っ張った。 ところが、今日はカードはおろか、なにも出てはこなかった。逆さにしても鼻血も出ない、というフレーズが脳裏に木霊する。 なんか本当に自分の救いようのないアホさ加減に腹の底から笑いが込み上げてきて、誰もいない公園で、危ないヒトのように青空を見上げながら笑った。 シーツは地面に落ちた様子はないし、また洗うのは面倒でもあるから洗濯し直すのは即座に却下して、きれいにおりたたんでアパートに戻った。 部屋のドアを開けたとたん、クリームシチューみたいないい匂いがして、急いでキッチンをのぞくと 若い女のこがそこに立っているのだった。 女のこは、何事もなかったかのようにちょっと後ろを振り返り、「おかえりなさい。おそかったのね」といった。 おそかったのね? えー!!!!!!!!!!!!!!!! まさか…? シーツの? やっとわかったの? みたいな笑みを浮かべて、女のこは、ゆっくりとこちらに向き直る。 けっして美人とはいえないかもしれない。でもぼくにとっては直球ど真ん中! タイプすぎて怖いくらい。 一瞬にしてぼくらは恋におちた。 special thanks:文tomohaさま
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