短いのはお好き?
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ユタカがサッカーボールを蹴るようにして、なんだかわからない化け物の頭を蹴りながら歩いていると、明らかにヒトの生首だと思われるモノのながい茶髪を鷲掴みしてブンブン振り回している化け物がいた。
そいつは、全身が深緑でそこに横に黒い縞模様が入っていた。シッポらしきものもあるようだ。どうやら生首でなにをするでもなく、子供が玩具で遊ぶように弄んでいるに過ぎないみたいだが、身体がそれほど大きくなく子どものようにも見えるが、成体であるかも知れずとにかく油断ならない。
化け物はどこからでもよく見えるような交差点の美容院を背にして立っていた。なぜまた物陰に潜んでいずにそんな見晴らしのいい場所に突っ立っているのか、よほど殺傷能力に長けているのか、狩りの相手を油断させるためなのか、この二つくらいしか理由は思い付かない。
すると、もう車など走ることなどない雑草に半ば覆い尽くされている車道のずっと向こうの方から物凄い速さで何かがやってきた。
ユタカは瞬時に悟った。コイズミーだ! コイズミーに違いない。そいつは伝説の化け物で、やつの目を見たものは、必ずやオカマかオナベにされてしまうのだった。
ヤッベー!
マジ、ヤッベー!
ユタカはこの情況を心底楽しんでいるようだった。で、ユタカはそのとき、そうか! と思った。わかったぞ、そうだったのか、あの化け物は妖怪ナガタチョウだ! ナガタチョウにちがいない。でこれからコイズミと一騎打ちだ。
竜虎相食むってやつだろうか、ユタカはこれから行われるであろう殺戮に武者震いした。
どっちが勝つんだろう。やっぱ現役の化け物コイズミーだろうか、はたまた妖怪ナガタチョウか、
どっちでもいいけど、どうしたんだ、殺戮は。顔見知りのふたりは、立ち話ししたまま、それも談笑といった感じで、酸鼻をきわめたジェノサイドなんてどこへやら和やかな雰囲気すら漂いはじめているではないか。
いい加減見るのにも飽き飽きしてきたユタカは、くそ面白くもないので、足許の生首をそれこそサッカーボールに見立てて、20メートルのフリーキックを決める感じで思いきり化け物たちをねらって蹴り込んだ。
生首は、蹴られたことによって傷口が開いたのかドス黒い血飛沫を吹き上げながら、真一文字に化け物たちめがけて飛んでいき、見事に化け物おやじたちに命中してホールトマト缶の中身をぶちまけたように炸裂した。
いや、炸裂したのは生首だけではなかったようで、それとわかる化け物の青い血が、ピューピューと四方八方へと飛び散っている。
みると、青い返り血を浴びながらナガタチョウ妖怪のハゲ頭に鋭い牙を突き立てているのは、コイズミーだった。やはり、談笑めかして話をしながら殺るタイミングをずっと計っていたのだ。
と、コイズミーの視線がスーッと流れた。
来る! と直感したユタカは、チノパンのポケットをまさぐって、チビたHBの鉛筆を取り出すと、躊躇することなく自分の右の鼻の穴に思い切り突き刺した。
凄まじい痛みと出血で意識が遠退きかけるのだけれど、激しい痛みがそれを許してくれず、結局ユタカは、怖いくらい激しくケイレンする。
やがてユタカは、ねらいどおりに変身を遂げていた。
コイズミーの天敵、ネンキンミカニュウだ。なにか少しピカチュウに似ているけれども、とんでもない。なんせ、コイズミーのセイジ・セイメイをいとも簡単に葬り去ることも可能なほどの潜在能力を秘めているのだ。
ユタカは、このネンキンミカニュウにメタモルフォーゼし、こちらに向かってくるコイズミーを返り討ちにしてやろうと、てぐすねひいて待ち構えているわけなのだ。
しかし、さすがはコイズミー、雲行きが怪しいとみると風見鶏のごとくホウシンやセイサクを変える百戦錬磨のセイジヤ、最後の切り札であるホウチョウという呪文を唱えた。
すると、どうだろう。ユタカの、いや、ネンキンミカニュウの皮膚という皮膚がべロンと剥がれた。まるでイナバの白ウサギだ。
しかし、ユタカも負けてはいない。今度はオザワンに変身して、ダイヒョウセン・リッコウホを辞退しコイズミーと刺し違えようとした。
意味のない無駄死にだけはしたくはなかったものの、結果そういうことになってしまった。ユタカは、ほんとうに己の浅知恵を呪った。
かくなるうえは、マジに…なんて思っているうちにも、早くもユタカの頭は、コイズミーの毒牙に刺し貫かれるや、スイカみたいに真っ二つに割られて、ストローで脳漿をジュルジュルと吸われつづけていく。
ユタカは、意識が薄らいでゆくなかで自分が人類などではなく、おっぱい星人であることを思い出していた。
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