短いのはお好き? DiaryINDEX|past|will
彼女は、ギグルカフェがお気にいりらしい。 東横線中目黒駅で降りて山手通りから駒沢通りに折れ、恵比寿方面へと左側を上っていって、目黒川を越えて少し行ったところにギグルカフェはあった。 1階は、Milk Crownという美容室。 ぼくら、バンドをやってる連中にとって、ギグるとは、即ち演奏することを指す。 ここでの『giggle』とは少女のくすくす笑いを意味する単語らしい。 入ってすぐにオープンキッチンがあって、手前にデコラテーブル、窓側にソファ、 奥にも長い黒のソファを配したクールな作りで、とにかく大きな窓が印象的だった。 くつろいだアットホームな雰囲気に、オーガニックカフェからの難民ではなくて、すでにギグルカフェ・マニアが多数存在するように感じた。 僕はドキドキしながら、いちばん奥のソファに座る。 ほんとうは、あんまり人には見られたくないので、入り口近くにちょこんと座っていたかったのだけれど、奥のソファしか空いてなかったのだ。 ただでも初めてのところは苦手なのに、あの彼女がよく来ているお店だと思うだけで赤面してしまうほどなのだった。 自分でもどうかしてると思う。 実のところ、ぼくは彼女のことをぜんぜん知らない。 web日記をみたことがあるくらいだ。 お店の可愛いらしいお姉さんに、エスプレッソを頼んだ。 考えてみると、ぼくのやっていることはストーキングではないだろうか。 いや、ちがう。 …と、思いたい。 たぶん、ほんとうに彼女と出逢えたとしても、ぼくは一言も話せはしないだろう。 彼女がどんなコなのか想像しているくらいなのが、イケメンでないぼくには、相応しい。 ぼくは、紫煙を燻らせながら、再び僕だけの彼女に思いを馳せる。
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