母のタイムスリップ日記
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3日ぶりに母の所に出かけた。 入り口で施設長と話しこんでいると職員が母を連れて見えた。 母は施設長と職員に穏やかな表情を見せ 何やら話しかけていた。 私とは視線を合わせない。
いつもなら 見るが早いかジトッと視線を絡ませてくるのだが…。
これは何なんだ? ひょっとして抗議の視線か? 記憶が留まっているかのような感じがする。
施設長と職員が今朝からの出来事を話してくれた。 朝 事務室まで歩いてきて室内を片付けると言ったらしい。 またキッチンまで行き 洗い物を手伝おうとしたとも言っていた。 今日は 意識がはっきりしているようですと言う。
意識がはっきりしてる時は 片付けたい 手伝いたいという思いがある事は 私も気がついている。 意思を持って言葉を発するという事が 凄いなと思う。 でも 実際には 作業は出来ない。 でも時折思う事がある。 うまく意識を引き出せれば 完全とは言わないまでも出来るような気がしてならないのだ。
認知症が進行して ひたすら独語風な状態で 鉛筆を持たせても作業に入れない。でも 回路が廻りだすまで待ってあげれば出来そうな気もするのだ。 多少はゆっくり向き合うのだが 待った結果 何をしようとしていたかを忘れてしまう事も度々なんだけれど…。
90を越える当りから 何かが吹っ切れて自分が見えるようになっているような気がするのだ。 元に戻る事はないのだろうけれど…。
母が時折ソファーから立ち上げる場面も見かける。 少し心配で一緒の時は目が離せない。 立ち上がれるなら立ち上がった方がずっと良い。 けれど 何時バランスを崩して倒れるかも判らないので…目が離せない。
日ごろ感じている事は 職員にも伝えているが 職員からクリアだと伝えられる事は少ない。 だから 今日 母の様子に気がついて貰えたようで 嬉しかった。
職員から私にバトンタッチされて 居室に入った時から母の様子は変わった。甘えである。 私の腕をそうっと撫でた。 まるで「本当にいるの」と確かめているようなそんな動作だった。
さっきは職員に礼を尽くす…といった風である。
トイレに誘導すると腹痛があるようで 顔をしかめた。 オムツの具合から トイレ誘導が済んだばかりのように感じた。 少しトイレで様子をみて 職員に排泄の事を聞くと3日に便通があったという事だった。 それでも 今日も出るのかと様子を見たが空振り。
「お散歩に行く」と聞くと頷いた。 今日は 他の人のズボンを着用していたので着替えさせ 職員に渡した。 手足や顔が冷たいので 母の作った上着を着せた。 「誰の?」と聞くと「おかちゃんの」と言う。 「そうね 〇チャンが作ったのよね」「うん」
外に出る時にまた表情が変わった。 出るという事を意識している。 腹痛も有るはずだが 苦しそうな表情が消えた。
歩き始めて ♪夕空晴れて 秋風吹く…♪と歌い出すと 腕でリズムを取る。 一番が終わって 黙っていたら♪ゆうぞら はれて あきかぜ ふく♪と小さな声で唄っていた。 最近は 声を出して歌う事も随分少なくなってきていたのになぁ〜。
近辺を歩いて 小山に差し掛かった時「嫌だ」と言った。 「大丈夫よ。ほら」と支えて上り始め 上りきったら嬉しそうに腕をちょっと上に上げた。 「ばんざい」と言ってあげるとニコリとした。 「大丈夫だったでしょ」というと頷いた。
「ね お腹空いてない?」「お腹?あるよ」 「そう お腹有るんだね。判ったよ」 「何が食べたい?」「何もいらない」 「〇チャンのお金預かっているのだから 大丈夫よ」 「ケーキ?あんこ?」「四角いの」 「ん〜 羊羹かな?」首を横に振る。 「ケーキかな?」頷く。
「ようし 行こう♪」 トコトコ歩き出してファミレスに入る。 久々である。 ケーキとは言ったけれど お通じの事を考えてフルーツの沢山あるものにした。フルーツだけは 私の分も分けた。 ほんのちょっとのデザートである。 それでも 美味しそうに食べていた。 アイスクリームを掬う時は 殊の外美味しそうだった。
それから遠回りをして施設に戻った。 施設の前で「〇ちゃんのお部屋見えるね」と言うと頷いて指差した。
「離れたくない」母は呟いた。 言われている意味を十分承知していて「誰と?」と聞いて見た。 △▽(娘の名前)ちゃんと空を指して言う。 「ふうん △▽ちゃんかぁ〜 いたの?」 「離れたくない」とまた言う。 母の言いたい事は伝わってくる。 …なんとかしなくちゃなんだな…の言葉を胸に収めた。 今日 この言葉を何回聞いただろう…。
家に帰る道すがら 視線を合わせようとしなかった事と合わせて 母の気持ちを推し測った…。
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